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2018.03.18 11:00

「土用の丑の日」の影に潜むブラックウナギ問題

photo by Getty Images


ウナギの代わりに焼き鳥や焼きナスを
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では、ニホンウナギはどのように漁獲されているのだろうか。水産庁によると、シラスウナギの採捕従事者は2万人を超える。川に上ってくるマッチ棒ほどの大きさの透明な稚魚を網ですくうという決して効率の良い漁ではないため、元締めが買い取って業者に束ねて売る仕組みが出来上がっている。

平成28年のシラスウナギの採捕報告が7.7トン、輸入報告が6.1トン、それらの合計が13.8トンに対して、養殖業486業者への池入れ数は19.7トンと、明らかにおかしい報告漏れが5.9トン存在する。高知県の例を挙げれば、漁期は12月から翌3月、池入れ量の上限350キログラムに達した時点で採捕停止命令に従わなければならないが、そういった規制の目をくぐったシラスウナギは全池入れ量の30%にもなる。

さらに悪いことに、2015年漁期でみると、国内の未報告分と輸⼊合わせて全供給量の7割が不適切に供給されたシラスウナギだと言われている(日本経済新聞電子版2016年11月27日)。つまり、この期間に養殖池に放たれた稚ウナギのなんと7割ほどが、IUU漁業(Illegal・Unregulated・Unreported =違法・無規制・無報告漁業)の可能性があるものだったということになる。
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IUU漁業はいま、持続可能な水産業の実現への障害として世界中で問題視されている。単純換算すると、国産特上うな重に載っている3枚のうなぎのうち2枚はブラックマネーに侵されている可能性があることになる。また、国産うなぎを食べる3回のうち2回は、違法漁業によるうなぎを知らず知らずに食べている可能性があるということにもなる。

そもそも、なぜこのような違法漁業が横行しているのだろうか。かつてご馳走で特別の日に食べていた印象のウナギを、丼チェーン店や量販店が庶民の手に届くようにした流通革命にも起因するだろう。しかし、筆者は「土用の丑の日」にうなぎを食べる習慣がマーケットサイドの最大原因だとみている。

土用の丑の日にウナギを食べる習慣は、江戸中期に蘭学者でありマルチタレントでもあった平賀源内が、夏にウナギが売れなくて困っていた鰻屋のPR戦略として発案したものが発端と言われている。今でいうバレンタインのチョコレート商戦に似ている。神事や華道・茶道のような生粋の日本文化とは毛色が違う。

国際環境団体グリーンピースによると土用の丑の日に日本人はたった1日で世界のウナギの年間消費量の約30%、国内年間消費量の約半数のウナギを消費する。この習慣をなくせば国内年間消費を半減できる計算である。

ウナギ養殖場では土用の丑の日に間に合わせるよう急成長させるなど生産における負荷も大きい。IUU漁業で漁獲され、日本で消費されるブラックなウナギは、土用の丑の日にうなぎを食べる習慣を控えるだけで、大幅に削減できるのではないだろうか。

違法漁業を払拭し、管理体制を確立することも重要なのだが、我々消費者がすぐに実行できる、土用の丑の日の慣例の方向転換が、最も簡便かつ有効な絶滅危惧種救済措置ではないだろうか。1つの期間に1つの種に消費を集中させること自体が環境負荷、食糧廃棄率などの問題を生み、持続可能性を担保できなくさせている。

ここで大切なのは、弊害を生む慣例を改善しつつ、かつステークホルダーが商機を失さないよう、良策を生むことだ。土用の丑の日には、天然資源に負荷を与えない持続可能な食品、たとえば焼き鳥や焼きナス、焼き豆腐など様々なウナギに代わる蒲焼のアイデアを出し合い、流通や小売りが率先して新たなトレンドを創出し、持続可能なビジネスプランを構築するべきだ。また消費者もおいしく、経済的で、持続可能な食を賢く選択することが要求されている。

ニホンウナギはいま存続をかけた局面にいる。パンダが蒲焼になることはないだろうが、ウナギこそ資源が回復するまでは、蒲焼きを免れたいと思っているに違いない。

文=井植美奈子

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