奥本:悩ましいのは、ホワイトペーパーって理想のビジネスの形や開発のあり方をとても美しく説明することができるし、投資家に夢を与えることは出来ると思うのだけど、どれだけ実行力があるかを見極めるのって難しいよね。その部分は個人の判断によるところが大きいかしらね。
渡辺:結構さっと読んだだけで「それはない」というのもあるよ。さっき話にでたマンチーなんかは「App Store のレビューを書くとコインをもらえる。そしてセカンダリー市場でコインの売買ができるようになってコインの価値はどんどん上がる」みたいな、ねずみ講的なことが延々書いてあってそれはダメだろう、と。
奥本:投資した人たちはそんなの読んでないでしょ。架空のCEOを堂々とウェブサイトに載せてたベンチャーがICOして30億円以上集めていた、というのもあったじゃない?
渡辺:ああ、集団訴訟になったセントラね。使ってる写真が縁もゆかりもないカナダの大学教授だったという。
奥本:ボクサーとかDJとか有名人をPRに使ったので信じてしまった人がいたのね。
渡辺:社名にブロックチェーンを入れただけで株価が何倍にもなった会社も一時続出してたよね。
奥本:ロングアイランドアイスティーという缶入り飲料の会社がロング・ブロックチェーンに社名変更して株価3倍。
渡辺:そういうとんでもないのに投資しちゃう人たちがいるってことが衝撃だわ。世の中って恐ろしい。
奥本:とんでもないといえばクリプトキティ。イーサリアムで買えるデジタルの猫繁殖ゲームね。あれはあなたに強烈に勧められて試してみたけど結構騙されたケースだと思ったわ。
渡辺:いや、だからあれは暗号通貨の理解のためにとりあえず面白いと思ったから勧めただけで、まさか高額のものを買うとは思わなかったから……ごめん(笑)。でも、クリプトキティのせいでイーサリアムのネットワーク全体が遅延するほど人気があって、「イーサリアムが実用的に大規模に用いられた最初のケース」とまで言われたんだよ。猫ごときでネットワークが遅くなるってイーサリアム大丈夫なのか、ともなったけどね。
奥本:私自身はクリプトキティを試すためにセットアップはしたのだけど、根が慎重だからルールとか勝ちパターンを理解しないことには投資するのが怖くて研究していたのよね。それを横でみていたゲーム好きの夫が面白そうだとやり始めて気がついたらたくさんの猫を飼ってたわ。
渡辺:なんかクリスマス柄でトナカイのツノがある猫とか、水兵さんの服着た猫とか、いろいろレアものを持ってたよね。
奥本:そのすべてのネコを売りに出したんだけど、「売りに出す」というためだけにかなりトランザクションフィーがかかるので、将来ヴィンテージとして価値が上がることを待ってるみたいよ。
渡辺:そういえば、うちのアメリカの親戚が昔、ビーニーベイビー(くまのぬいぐるみ)を200個ぐらい持ってたな。将来絶対価値が上がるからって言ってたけど全て二束三文のただのゴミになりました……。
奥本:クリプトキティはオンライン版ビーニーベイビーだったのね。
渡辺:どんな暗号通貨もそうなんだけど、ゼロになっても問題ない金額以上に投資したら絶対ダメです。
奥本:確かに投資って余裕資金でしろと言うよね。
渡辺:一方で去年みたいに暗号通貨が急騰すると「もっと本腰を入れて買っておけばよかった」と欲が出たりするんだけどね。リップルが出してるXPRなんか、何年か前に50ドル分買っておいたのが一時期2万ドルまでなったからなぁ。「しまった、5000ドル買っておけば……」とかね(笑)。でも買った当時はクリプトキティくらい怪しいものを買う感じだったよのね。
奥本:最近は新しいコインが毎週何個も出てきているわけだけれど、それに対してどうやって関わっていくのが正解なんだろう?
渡辺:うーん。その人のリスクプロファイルによるからなんとも言えないなぁ。とにかく全部に少額ずつ投資し続けるなんていう人もいるし。私個人的には、10年から20年先には世の中で何百何千もの異なるブロックチェーンベースのシステムが動くようになっていると思うので、ちょっとずついろんなものに投資しながら様子を見ようと思ってはいるんだけどね。
連載「誰も知らないシリコンバレーの裏事情」
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