ビジネス

2018.02.19

「面倒くさい」から生まれる、ものぐさイノベーション

イノベーションに意識の高さは不要!「当たり前」が価値になる(illustration by Kenji Oguro)


こうして視点を変えてみると、僕が携わった過去の事例にも、この「ものぐさな発想」から成功したものがありました。僕の会社が全体監修を務めている、金属加工の産地である新潟県燕三条地域とその周辺で、毎年秋に開催されている「燕三条 工場の祭典」です。かつては、三条市内中心部の広場にテントを張り、そこへ市内の事業者が集まって「越後三条鍛冶まつり」というイベントを行っていました。各自が自社商品の販売や実演、ワークショップを行い、来場者が燕三条の産業を体験するというものです。

僕たちはその発想を根本から変えました。普段は一般の人々が入ることのできない工場が逆に扉を開いて、多拠点の会場とすることで、人々が自由に工場見学をしながら地域を巡る、というイベントにリニューアルしたのです。結果、それまでは1日の会期で、地元から数千人の人々が来場するという規模から、地域の100以上の事業者が参加し、4日間の期間中、日本各地から5万3000人以上の来場者が集まる規模に成長。同地域を代表するイベントとなりました。


金属加工の産地、新潟県燕三条の工場を訪れ、ものづくりを体感できる「燕三条 工場の祭典」。

これも、「わざわざ工場の外へ出て、広場に集まって人々を呼び込む」より、「それぞれの工場が扉を自ら開いて、人々が来てくれるのを待つ」という、ものぐさな発想から生まれた成功例でしょう。

その他の事例としては、北海道小樽市で、年1回開催されている「国際スポーツ雪かき選手権」が挙げられます。小樽市では住民の高齢化に伴い、雪かきができない人々が増加し、深刻な問題になっている。そこで、このイベントを小樽商工会議所青年部と共に開催している、日本スポーツ雪かき連盟の発想は、まさに秀逸です。

地元では毎年冬の厄介者である「雪をかく」という行為。それをアジアやオーストラリアから来る観光客が行う「スポーツ」に転換すれば、立派な観光資源となるというものです。これこそ一挙両得、いや、これこそ寝てても儲かる「ものぐさイノベーションの神髄」ではないでしょうか?


日本スポーツ雪かき連盟と小樽商工会議所青年部が、年1回開催する「国際スポーツ雪かき選手権」。

2017年から東京都内で始まったフードデリバリーサービス「ウーバーイーツ」はどうでしょうか。世界70か国に展開する配車サービス「ウーバー」も、日本ではタクシー業界の反発から、苦戦。その配車サービスを「人」を乗せるのがダメなら「食べ物」、つまり「出前」に丸ごと転用したのがウーバーイーツ。規制の壁に立ち向かうのではなく、誰からも咎められない楽なアプローチを選ぶのは、まさにものぐさ的発想。現在は、横浜まで順調にサービスを拡大しています。

たまには立ち止まったり、時には怠けたり、一見すると無駄な時間をものぐさに費やすことによって、物事を要領良く解決するようなアイデアは生まれるのかもしれません。だって、現在の資本主義の象徴、マイクロソフトの創業者にして大富豪であるビル・ゲイツだって、ものぐさ精神の信奉者なのですから。

“I choose a lazy person to do a hard job. Because a lazy person will find an easy way to do it.”
(難しい仕事は怠け者に任せる。なぜなら怠け者は簡単に解決する方法を見いだすから)


山田 遊◎電通Bチームゲスト。バイヤー・監修者。method代表取締役。南青山のIDEE SHOPバイヤーを経て、2007年methodを創業。著書に『デザインとセンスで売れる ショップ成功のメソッド』。

文=山田 遊 イラストレーション=尾黒ケンジ

この記事は 「Forbes JAPAN 次代の経済圏を作る革命児」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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