2008年の中国・四川大地震では6万9000人もの命が失われた。被災地から遠く離れた深センに本部を置くテンセントは、この巨大災害に直面し、企業として何かしなければとの思いに駆られた。
ユーザーからも被災地に手を差し伸べたいとの声が相次いだ。この時、テンセントは2000万元(約3億4000万円)を寄付し、多くの人々がテンセントを通じて被災地に義捐金を送った。
かつてテンセントのCAO(最高総務責任者)を務めていた陳一丹(チェン・イーダン、46)は、四川大地震での寄付活動は「テンセントが慈善事業をさらに推進する“きっかけ”になった」と話す。
平時でも寄付が集まるサイトに
テンセントは1998年設立。オンラインゲームやSNSアプリ「WeChat」などを有し、各方面に影響力を持つ。WeChatのユーザーは9億人近く、市場価値は中国の上場企業ではトップの3000億ドル(17年4月現在)に上る。
公益事業に乗り出したのは、震災より前の07年。自社の強みを生かして効果的に貢献しようと、ネットを通じた寄付の仕組みや慈善事業を行う「テンセント・ファンデーション」を立ち上げた。関係する法律もまだない時期に、中国のネット企業で最初にこの分野に着手した。
一般に、寄付をする人は災害時に激増するが、平時にはほとんどいない。陳は震災で盛り上がった慈善の機運を「この流れを小さくとも途絶えることなく続くものにしたいと思った」と話す。テンセント・ファンデーションの最初の理事長を務めた後、テンセントが毎年利益の一部を一定の比率で寄付する制度をつくり、世界最大のオンライン寄付プラットフォーム「テンセント公益」を立ち上げた。
テンセント公益の寄付者は商店や空港などにある募金箱まで出向く必要はない。WeChatなどを使って電子決済の形でいつでも簡単に少額から寄付できる。しかも世界の2万4000余りのプロジェクトから寄付先を選び、寄付後もその最新情報をフォローできる。寄付先を選んでスマートフォンで歩数を記録すると、歩数に応じて企業がその団体へ寄付をしてくれる仕組みもある。
テンセント公益は延べ約1億人から17億元の寄付を集めた。とくにテンセント公益が定めた「99公益日」の16年9月の活動では、1日に延べ680万人から3億元(約50億円)が寄せられた。
従業員の公益事業への参加も奨励し、年1日を公益事業参加のために使うことを認めている。さらに、現在は名誉顧問となった陳をはじめ、CEOのポニー・マーも自ら資産を投じて基金を設立するなど、それぞれの形で公益事業に深く関わっている。