スポーツ界が最先端のメソッドを生み出せる理由
岡島:グレートリーダーと羊飼い型リーダーシップは、よく似ていますね。羊飼い型リーダーシップが広まった大きなきっかけは、私の恩師であるハーバード大学のリンダ・ヒル教授が2015年に出した『ハーバード流 逆転のリーダーシップ』です。スポーツ界で中竹さんが2000年頃から「フォロワーシップ」というキーワードを提唱されてきたことに、時代が追いついた感じですよね?
これは、スポーツ分野がビジネスを先取りしているのか、それとも中竹さんのリーダーとしてのスタイルなのか、どちらなのでしょうか?
中竹:スポーツもビジネスも、基本は同じだと思っています。たまたまスポーツの方がシンプルなフレームで、ルールもしっかりしていたということではないでしょうか。
ただし、スポーツのメソッドは基本的に競技をまたぐことはできません。アメリカのメジャーリーグの強豪が「よーし、次はサッカーのチャンピオンズリーグで勝つぞ」とは言いませんからね。一方、ビジネスの強豪はあらゆる分野に進出します。アマゾンは書店から始まって、クラウド、IoTなど、今やあらゆる領域を手がけていますね。
岡島:なるほど。グーグルもそうですね。スポーツのメソッドが競技をまたげないという視点はとても興味深いです。因果関係を明確にしやすい分、育成方法の結果検証がしやすい、ということですよね。
中竹:全体を見ても、ビジネスよりもスポーツの方が早く限界値が来たり、全体の競争が激化するの早いので、早い段階で破壊的イノベーションを起こさないと勝てないんです。スポーツの領域にもテクノロジーが入って映像分析などがされるようになり、「ビジネスよりも、圧倒的に速いサイクルで破壊的イノベーションを起こさねばならない」と思いました。
先ほどのチャートでいうところの、全体の同一化・均質化ではなく多様性を生かす受容性を重視すること、また論理や分析でなく共感や洞察を重視することをしないと「破壊的イノベーション」を起こせないことが、スポーツの世界ではすでに立証されています。
岡島:面白いですね。スポーツの方がデータ分析も進んでいて、それが重要な位置を占めているそうですね。
中竹:特にフィールドゲームのほとんどは選手にGPSをつけられるので、どれだけ走ったかまで分かります。時間も人数もKPIも決まっているスポーツの方が、データ分析をしやすいということですね。
岡島:あらゆるKPIを測れるわけですね。
中竹:今までのスポーツ界は、カリスマリーダーがいるチームが勝って来ましたが、今はそれでは勝てなくなりました。私もコーチとして、まずは選手を人として鍛え、「人間として良くないと勝てない」と強調しています。ストラテジーやスキルだけでなく、先ほどの「being」の領域ですね。
コーチ自身がどのように自ら学ぶか、ファンへの接し方や挨拶なども含めて、いわゆるオフ・ザ・フィールド、フィールドを離れたときのあり方をどれだけ律することができるか、そちらが圧倒的に重要です。ビジネスもどんどんその方向へ行くと思いますが、スポーツの方が早かったということかと思います。
岡島:日本のビジネスパーソンは、特にホワイトカラーの場合、ジョブ・ディスクリプションが明確でない場合が多く、行動データから成果への仮説検証が測定しにくい。これからは、スポーツで行なっているインサイトをビジネスに取り入れるケースも増えてきそうですね。
ところで、中竹さんはもともと三菱総研の社員だったのに、どういう経緯でラグビーの監督になったのでしょうか?