こうした時代を先導していく人間に必要なのは、どんな要素だろうか。年間200人の経営者のリーダーシップ開発を手がけ「経営者のかかりつけ医」と呼ばれるプロノバ代表取締役社長の岡島悦子と、早稲田大学ラグビー蹴球部監督、ラグビーU20日本代表ヘッドコーチを歴任し、日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクターで、チームボックス社長としてビジネスの世界でもリーダー育成を手がける中竹竜二が「新時代のリーダーシップ」について対談した。
良いコーチは「勝て」という言葉を使わない
岡島:去年7月に出した『40歳が社長になる日』にも書いているように、私はこれから求められるリーダー像は強力なリーダーが先頭に立って指示を出す「カリスマ型」ではなく、背後からサポートしてメンバーの個性を発揮させ結束させる「羊飼い型」だと思っています。中竹さんが考える理想のリーダー像というのは、どのようなものでしょうか?
中竹:岡島さんの『40歳が社長になる日」を拝読しましたが、「持続的vs破壊的イノベーション」の対比のチャートが非常に興味深かった。私がコーチを始めたのは10年前で、キャリアとしてはまだ短い方だと思います。コーチを始めて4年してすぐ「コーチのコーチ」(コーチディベロッパー)になりました。私が手がけているのは、コーチの育成です。自分が直接選手を指導するのではなく、選手を育成するコーチたちを指導する、という役割です。
スポーツの世界では、コーチは、選手のスタイルを認めて育てないと育たないといわれています。私が考えるリーダーの役割とは、具体的なスキルを教えるよりも、その人の「あり方」をきちんと認めて、相手にも伝えてあげることです。
以下のチャートにあることはスポーツの世界でもまさに立証されており、世界に通用するような効果を出すグレートコーチは「破壊的イノベーション」を起こせる人。一方、旧来型のコーチはスキルの改善点を指摘しがちな「持続的イノベーション」を実践しているとも言えます。
スポーツの世界では成果をあげるリーダーの条件が、研究によって明らかになっています。例えば、良いコーチは「勝て」とあまり言わないんです。重要なのは選手を鼓舞することではなく、選手を信じ、目の前のことにいかに集中させられるかどうか、です。
岡島:興味深いですよね。ハーバードビジネススクールでも、ここ15年ほどで育成方法として重視されるものが変わってきました。「Knowing(知識や理論)」はコモディティになり、ケーススタディやフィールドスタディで実践方法を疑似体験する「Doing」が中心になりました。
しかしながら、エンロン事件(2001年、米エンロン社において不正経理や粉飾決算が次々と発覚した事件)以降は特に、人として、経営者として、リーダーとしての「あり方」が何かを考える「Being」が重視されるようになっています。
スポーツは結果が可視化されるのでベストプラクティスが見えやすいですよね。
中竹:つい勝利が目の前に有ると「勝て」と言いたくなりますが、勝つのは結果論なのでコントロールできないんです。グレートなコーチたちは、何処までがコントロールできるかが分かっているので、コントロールできないこと、当たり前のことをいちいち言いません。
岡島:コントローラブルかどうかが分かれ目ですね。いまの企業は先が予想できない「VUCA」な状況に取り巻かれています。これはゴールが分からない、さらに言えばビジョンすら立てられない中で成長を目指さなければならないということです。リーダーが予測可能な範囲は限られている、そんな中、顧客最前線にいる現場に任せ、ひたすらの仮説検証を繰り返しながらしか、ビジョンが構築できない時代になっています。