キャリア・教育

2018.09.07 07:30

人生の判断基準は「10歳で決まる」


黒川:先ほどお父さまの家系がアート系の活動をしていると話していましたが、さすがにご両親も高校中退には驚かれたでしょう?

青砥:母親は一瞬「ぎゃー!」って叫んでいました。でも父は「自分がそう思うなら、その道に行きなさい」と僕の考えをすんなり受け入れて、尊重してくれました。高校生を子どもに持つ親なら、子どもには苦労を味わわせたくない、面倒を見てあげたいと思うのが普通だと思います。でも父親は、自分で選んだ道を歩いた方が強く生きられると感じていたのかもしれません。こんな人生の選択の後押しをしてくれる親はなかなかいないと思うので、本当に感謝しています。

黒川:高校を中退したとしても、方向性はいつでも変えられますからね。私が東大医学部で同級生だった養老孟司さんも同じです。東大を出て医者にはなったけれど、その後は自分で自分の人生を選んでいる。人生のバックボーンとなる判断基準は10歳までに決まりますが、すべての道筋が決まってしまうというわけではありません。青砥くんの生き方は非常に興味深いですね。

──今までの目標と、これからの展望を教えてください。

黒川:米国へ留学してからの私は、ほとんどの先輩が2、3年で帰国するのに、そのままあちらに残ってしまいました。深く考えた訳ではありません。ですから、他流試合の連続でした。

でもだからこそ、それぞれの場所で出会いがあり、大勢のロールモデルやメンターにめぐり会えました。同じ仕事をしているわけではないけれど、「素晴らしい指導者メンター」や「あの人のようになりたいロールモデル」と思える人が何人もいました。

青砥:僕の目標は本当に心の底から黒川先生です。だから、この対談企画も先生とがよかったんです(笑)。いつもいつも黒川先生のそのでっかすぎる背中、行動から学ばせてもらっているんですよ。

黒川:そう言ってもらえるのは嬉しいですね。教育の本質は実体験と感動からくる恩返しだと私は考えているのです。私は今まさに、いろんな人に育ててもらった恩を返しているんですよ。

青砥:黒川先生以外にも多くの“お偉い”方々にお会いして、僕の妄想の世界観などをディスカッションさせて頂く機会を頂いていますが、肩書きがないと話の冒頭から否定されるんです。あるいはだいぶ見下されて話が進みます。

でも黒川先生は最初から違いました。「やってみたら?」「変だけどおもしろい」と言ってくれましたよね。自分の力で世界中を飛び回りサバイブしてきた人だからこそ言える言葉だと感じました。妄想の世界なんて、やってみないと分からないわけですから。どれだけ先生の言葉に勇気づけられたか。

黒川:15世紀にグーテンベルグが活版印刷を発明したことによる「情報の広がり」は、より多くの人たちに考え、問いかけ、真実を求め、検証する機会を与えました。それをきっかけに西欧が世界を圧倒したように、今後はインターネットとデジタル技術によって社会の在り方が大きく変わるでしょう。そうなれば、政治家、官僚、企業人などのエリートを輩出する大学が、若者たちに実体験を伝える機会も増えるかもしれません。

しかし、入試の偏差値だけの「知識エリート」ではダメですね。これが日本の「弱さ」として、最近になってここかしこに出てきているのです。

青砥:僕は今、脳と人工知能と人の成長の掛け合わせで、感情や記憶の可視化のプロジェクトを推進しているのですが、まさにITの技術を使って、子どもたちが多くの黒川先生の様な「かっこいい背中」を見る機会を増やし、そしてそれをやってみる機会をうんと増やす仕組みを創りたいなぁと思いました。

子どもの触れる背中が親と学校の先生だけではもったいないですからね。心から憧れる存在に出会う、ロールモデルに出会うことで、そこに近づくためのド根性みたいなものが芽生えますからね。

黒川:だからこそ脳だけではなく、実体験から育つ心と感性、そしてガッツが重要なんですよ。

青砥:本当にそうですね。新しいことなんかは、リスクだらけで否定するのは簡単。でもだからこそやってみる価値がある。だってみながやりたがらないから。でもそれを突き進むためには、自分に合ったロールモデルにパワーをもらい、心とガッツを養うことが重要ですね。そしてそれを得た状態は、間違いなく脳のパフォーマンスも高めてもくれるでしょう。


黒川 清◎東京大学、政策大学院大学の名誉教授。1962年3月東京大学医学部卒業。1963~1967年まで同大学医学部第一内科に勤務。医学研究科大学院にて医学博士取得。1969~1983年在米、カリフォルニア医師免許、米国の内科と腎臓内科専門医などとして活躍。UCLA医学部内科教授を辞して、東京大学医学部助教授として帰国。その後、東京大学医学部第一内科 教授、東海大学医学部長、政策研究大学院大学教授などを経て現職。紫綬褒章、フランスのレジオンドヌール勲章シュバリエ、旭日重光章など受賞多数。主な著書に『世界級キャリアのつくり方』『イノベーション思考法』など。

青砥瑞人◎DAncing Einsteinファウンダー CEO。日本の高校を中退後、モデルを経て留学、UCLAにて神経科学部を飛び級卒業。帰国後、ドーパミン(DA)が溢れてワクワクが止まらない新しい教育を創造すべく「DAncing Einstein」を設立。脳x教育xITの掛け合わせで、世界初のNeuroEdTechという分野を研究し、いくつも特許対象のアイデアをもつ。最新の論文から導き出された脳の働きを理解したうえで効果的な教育方法などを研究開発、企業はもちろん学生や教師も巻き込んでいる。

構成=華井由利奈 写真=藤井さおり

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