アメリカでは2017年にトランプ大統領が環境政策への予算を大幅に削減した。環境保護局の予算は31%削減の51億ドルである。しかし、返す刀で、アメリカの財団がこぞって研究者への助成を表明した。
パリ協定を離脱した時も、カリフォルニア州知事は力強くパリ協定存続を表明した。ノーベル平和賞・アカデミー賞受賞者のゴア前副大統領は「不都合な真実2」を公開しトランプ大統領の後退する環境政策を批判している。混乱が続くアメリカだが、海洋環境保護活動のステークホルダーたちは大統領に耳を貸す気配はない。
一方、ヨーロッパに目を向けると、イギリスのEU離脱(ブレクジット)にともない、EUとイギリスの双方で水産行政の法整備が進められている。
イギリスでは9割を超える漁業者がブレクジットを支持したと言われている。それはEU政府による漁業規制強化とヨーロッパ諸国への国別個別漁獲割り当てによって被ったイギリス水産業の不利益、減収、そして廃業への反発だ。
イギリスは自国のEEZ圏内での操業権をEU諸国に分配されたため、目の前の海でも魚が獲れない事態が続いた。フランス船やスイス船が港から見える近海で網を巻いていくのを指をくわえて見ているしかなかったのだ。イギリスは今、自国の水産業を取り戻そうとしている。
そんな中、日本でも“ファースト”を主張していることがある。東京オリンピックにおける水産資源の食糧調達において、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下、オリパラ委員会)は、「日本ファースト」な食糧調達基準を発表した。そこには持続可能な社会を目指す国際基準から実質離脱した日本がある。
EU時代の2012年にロンドンオリンピックを迎えたイギリスでは、オリンピック史上初めて持続可能な食糧調達基準を制定し、水産物の調達において達成率100%を成し遂げた。オリンピックの期間中、オリンピック村で調達されるすべての食糧は国連食糧農業機関(FAO)の定める持続可能な食糧調達基準に批准したルールを順守して調達するというものだ。続く2016年のリオにもこのレガシーは受け継がれた。
残念ながら、日本はこのレガシーを受け継いでいない。東京オリンピックの食糧調達基準は、FAOの持続可能な食糧調達基準に達しておらず、批判の対象となっているのだ。
東京オリンピック・パラリンピックは、「食の輸出産業促進」を掲げる日本にとって大切な成長戦略のショーケースでもある。持続可能性はもはや世界の市場では付加価値として認知されており、水産物の輸出促進には欠かせないうえ、自国の水産資源の持続可能性を高めることは水産業の衰退を食い止める重要な要因である。海洋環境のステークホルダーはみな、オリンピックレガシーとして持続可能な水産資源の調達へのムーブメントを期待している。
では解決策はあるのか、探ってみよう。
水産物の持続可能性を証明するには、第三者機関GSSI(Global Sustainable Seafood Institute)が認めるFAO基準をクリアした国際機関の漁業認証制度を利用するのが妥当である。
現在該当するのはMSC、ASCなどであるが、一般社団法人「大日本水産会」が発行する和製認証MEL、AELはその基準に達していない。ロンドンでは漁業認証に加えて資源量等を客観的に示すレーティングプログラムMCSも採用された。筆者はオリパラ委員会の担当者に直接お伺いしたのだが、残念ながらレーティングプログラムの導入は必要ないし、発表した現行のMEL、AELなどを含む体制を改善するつもりもないとの答えだった。