シリコンバレーで奮闘する女性が選んだ「アンバランスなバランス」

(左)Women’s Startup Lab CEO 堀江愛利(右)Nest CTO 松岡陽子(illustration by Masao Yamazaki)


堀江:より多くのものを求める風潮の中で、重要なことを選び、不必要なものは切り捨てないといけません。

松岡:何が人々を幸せにするのか。お金や地位ではありません。皆が振り返って考えないといけない。そうして家族や自分の時間の大切さに気づき、運動やシャワーの回数も増やそうと思える。

堀江:松岡さんは自分の価値観で働く会社を決めています。今の会社、Nestをどうやって選びましたか。

松岡:私は自分のミッションを最優先課題にする「ミッション・ドリブン」の考え方です。一度きりの人生。自分の能力を使って社会をより良い場所にしたいと思います。そのために自分が一番結果を出せる場所にいたい。最初は大学がその場所だと思いました。努力して成功しましたし、楽しかった。

今は次の段階。自分が一番人の役に立つのは、専門の機械学習と人間の心理が交わるテクノロジーを築くことだと思っています。(Nestで作っているような)消費者向けの製品は、人々の日々の生活に役立つ。やりたかったことをNestで実現できています。自分が正しい方向に進んでいると実感できる。

堀江:私はなぜ、Women’s Startup Labを始めたのかとよく聞かれます。当時、他のスタートアップもやっていましたが、私のミッションは次の世代にインパクトを与える仕事をすること。Women’s Startup Labの方がより強いインパクトを与えられると思いました。ミッションに従って決定を下すのは正しいことだと思います。

会社の重役会議で授乳

松岡:あるスタートアップで働いていた時のことです。生まれて数週間の赤ん坊がいて、仕事場に連れて来ていました。赤ん坊はよく寝ますよね。大学でもよく赤ん坊を抱っこしながら教えていました。私はその会社の重役で、毎週重役会議がありました。女性は私一人。胸の上にカーテンのようなカバーをつけて授乳していました。

ある時その会社のCEOが「もう帰っていい」と言ったんです。最初、意味がわかりませんでした。気づいたのは、私が彼らを気まずくさせていた、ということです。

「私はここでやるべきことをしています。帰る必要はありません」と言いました。

堀江:帰らなかったんですか?

松岡:その場に留まりました。動けなかったんです。赤ん坊が寝ていましたから。

堀江:セクハラや不快な扱いを受けた時、どう対応しましたか。

松岡:場合によって違います。立ち上がって「ふざけるな」と直接言うのは簡単ですが、現実にはうまくいきません。
 
反論したいのにうまく言えず、自分だけで受け止めていたこともありました。家に帰って毛布にくるまって「あー!」と叫ぶ。「なんでこんなこと自分にしてしまったんだろう」って。でも、大切なのは自分のミッション。それから自分がどうするかを決めないといけない。

馬鹿げた政治や不快な人にミッションを止めさせていいのか。答えは「私は続ける」ということ。やり続ける。起き上がって毛布をはいで続ける。 

堀江:Women’s Startup LabのCEOとして、女性起業家のセクハラ問題をよく聞きます。それぞれにとって何が最善の道なのか、答えはすぐ出ません。何をもって最善とするか、結果として何が起きうるのか、理解しないといけない。私はその人との関係が自分のミッションにとってどれほど大切なのか、必ず尋ねます。これは社会全体の問題。男性や企業が変わる必要があります。

──現在発売中のForbes JAPAN 2月号「次代の経済圏を作る革命児」特集では、この対談を行った松岡陽子さんのロングインタビューを掲載。人間とロボットの関係性を突き詰めてきた彼女を“突き動かすもの”に迫る。

文=フォーブス ジャパン編集部

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