「ビオディナミとは、ルドルフ・シュタイナーが提唱した“宇宙の力”を作物の栽培に活かしていくバイオダイナミック農法に基づくワインのことです。オーガニック=BIOワインとは音が似ているので混同されがちですが、まったく異なるアプローチです」と教えてくれたのは、日本で初めてオーガニックワインの専門店「MAVIE(マヴィ)」を1998年にオープンした田村安さん。
そのシュタイナーは幼児教育でも知られた人智学者なので、ご存じの方も多いかと。彼の提唱した農法では、天体の運行により定められたカレンダーに従って栽培が行われ、その土地造りには牛の角に牛糞を詰めたものを土中に埋め、取り出したら水に溶かして時計回りに20回グルグル……この話だけで終わってしまいそうなのでまたの機会に譲るが、とにかくビオディナミとオーガニックワインは農薬や化学肥料を使わないという点では共通しているものの、そのスタンスやアプローチはまったく異なるのだそう。
ならば、ヴァン・ナチュールや自然派ワインとは?
「ヴァン・ナチュールと、それを日本語に訳した自然派ワイン。そのどちらもですが、特に定義されているものはないので、最近の消費者ニーズとワインのセールスサイドによってふんわりと生まれてきた言葉。それによって何を担保してくれるわけでもなく、非常に曖昧な区分です」(田村さん)
とはいえ、多くの自然派ワインやヴァン・ナチュールが減農薬もしくは農薬不使用、亜硫酸塩の低量化などを掲げ、ワイン造りに取り組んでいるのも事実であり、オーガニック認定を受けていないからワインとして質が劣る、という訳では決してない、と申し添えておこう。
ここではオーガニックワインが是で、添加物を多く加えた安価ワインを否とするものではない。どんなものを口にするかは個々人の嗜好によって決められるべきだし、筆者自身も高級ワインをそっと味わうときもあれば、安価ワインをガブ飲みするときもあり、そのどちらも楽しめるならそれでもいいと思う。
ただ、グラスのワインを口に含むとき、そのワインがどんな風に海を渡ってきたのか、どんなワイナリーで造られたのか、そしてどんなブドウだったのか、に思いを馳せることは決してマイナスではない。1000円には1000円の、1万円には1万円に値する背景がそこにあるのか、今後はもう少し気にしながら飲みたいものだと思いを新たにした。まあ、3杯も飲めば酔っ払ってすべて忘れてしまうのだけれど。
MAVIE(マヴィ)
98年に日本初のオーガニックワイン専門店として創業。赤坂本店のほか、新高円寺、大手町に店舗をもつ。
03-6826-4310 http://www.mavie.co.jp/