渡辺:そんな中でよく頑張った! Stitch Fix。
奥本:そう。でも、成長率はかなり落ちてきているみたい。CEOは34歳の女性で、「おしゃれに興味はあるけれどショッピングに行く時間がない」という彼女自身の悩みを解決するビジネスを思いついて6年前に起業。カスタマーの嗜好を反映したデータをもとにスタイリングのチョイスを提供するというのが売りのはずなのだけど、私たちのまわりでお試しした人たちには評判よくないよね。同じような服ばかり送られてくるとか、好みに関するフィードバックがちゃんと反映されていないとか。
取り扱いのボリュームが増えるのと比例して、ハイタッチなサービスを提供するのが難しくなってきているのかもね。
渡辺:あと、洋服ってバリエーションがあまりに多いからそもそもデータ解析するのが難しいのかな、って思った。
奥本:Stitch Fixは、ネットフリックスでデータ解析してた人たちをかなり引き抜いて、データサイエンティストだけで70〜80人いるらしいよ。ネットフリックスはデータ解析では有名で、AWSの最大ユーザーとして知られたこともあるくらい。
渡辺:その精鋭をもってして「明るい服が好き」というカスタマーに暗い褐色系の色ばかりのセットを送ったりしてる。
奥本:やはり洋服は難しいのか、それともStitch Fixのアルゴリズムがダメなのか。
渡辺:Stitch Fix、人間のスタイリストも3000人以上いるってIPOの書類に書いてあった。結局人間の手を介さないとダメみたいね。
奥本:確かに、オンライン・リテールでも実店舗並みのハイタッチなサービスを人間が提供するところが増えているよね。たとえばキャリア女性をターゲットにしたMM. LAFLEUR。サンフランシスコで期間限定のポップアップストアをオープンしたときに予約して行ったらパーソナルスタイリストが洋服を選んでおいてくれて驚いた。シャンパンまでサービスしてもらったし。
渡辺:ちょっとゴージャス。
奥本:選んだ洋服はオンラインで購入して、手ぶらで帰れるというのも嬉しかったな。それと、自分のスタイリストからお礼のメールとか「新作入りましたよ」というハイタッチなメッセージが届くというカスタマーエンゲージメントもなかなかのものだと思う。
渡辺:ああ、あれ、「もしかしてAIプログラムで自動受発信してるんじゃないか」と疑ってたんだけど、この間「担当が変わって新しくあなたの担当になりました」っていう人からメールがきたから本当に人間がメールしてるみたいね。
奥本:これだけオンラインの広告が趣味趣向に合っていて、好みのアイテムが掲示されるようになると、店舗に行く必要がなくなってきたような気がするんだけど、どう?
渡辺:私はお店に行くこと自体がもともと好きじゃなかったからなぁ……。「お店に行くのも面倒だし、シリコンバレーでは誰も私の服装なんか見てないし、もうどうでもいいや」って感じでジーンズとヨガパンツばかりになっていたのが、「お店に行かなくていいなら、誰も見てなくてももう一度頑張るか」という気になった。
奥本:私はもともとショッピングが大好きだけど、ワーキング・マザーとなってお買い物に行く時間を捻出するのが大変、という理由で、リアル店舗から足が遠のいてしまっていたのね。でも、夜寝る前の隙間時間でネットをブラウズしてるだけでも擬似ショッピングができてかなり満足かも。ポチっとするまえにとりあえずショッピングカートに入れて物欲を満足させるという「エア買い」もよくする(笑)。
渡辺:ああ、あと、実際買って、それが家に届いたら試着してセルフィーを撮ると、それだけでもう満足しちゃって返品、というのもある。
奥本:それではマーケターの夢にはならないね(笑)。