企業の競争力、そして中長期的な企業価値をいかに高められるか──。CFO(最高財務責任者)の役割は、重要度が増している。
さらには、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)など機関投資家の間で、長期的な価値向上に注目して投資先を選ぶ「ESG(環境・社会・ガバナンス)投資」が広がり、財務以外の非財務(「見えない価値」)情報を企業が積極的に開示することが求められはじめている。
非財務資本は、1. 金融資本 2. 知的資本 3. 人的資本 4. 製造資本 5. 自然資本 6. 社会的資本に分類される。こうした、企業統治の強化や人材、知的財産への投資、社会的責任(CSR)などといった、非財務情報を、財務情報と併せて開示する「統合報告書」発行は2016年末時点で約320社、前年より4割強増えた。一方、日本IR協議会の調査によると、企業の過半数は投資家向け広報(IR)活動の課題として「財務諸表に表れにくい企業価値の説明」を挙げている。
日本CFO協会専務理事・谷口宏は次のように話す。
「ESGをはじめとした非財務情報も、財務情報同様に重要視され、企業がそのアンテナを張っているか、が問われている。一橋大学大学院特任教授の伊藤邦雄氏もROE(自己資本利益率)とESGを併せて『ROESG』という言葉を使っているが、今年を象徴するトレンドだといえる」と話す。
経済産業省は17年5月、「価値協創のための統合的開示・対話ガイダンス」を出し、この手引きをもとに、資本市場との対話のための統合報告書の導入企業の拡大を目指している。そこでは人材や技術、顧客基盤といった「無形資産」への投資、ブランドづくりに向けた考え方を開示すべきだとしている。
デロイト トーマツ コンサルティング パートナー、日本CFO協会主任研究委員の日置圭介は次のように話す。
「企業活動の環境的側面、社会的側面、経済的側面の3つの側面から評価するトリプルボトムライン、非財務資本への取り組みを落とし込む手段として、(国連の)『持続可能な開発目標(SDGs)』への取り組みを統合報告書に記載する例が目立つのも特徴だ。CFOが、財務の持つ“厳しい定義”と非財務やイノベーションといった“ゆるい定義”をいかに融合させて、企業価値を作っていくかが鍵になるだろう」
15年の企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)導入や14年の日本版スチュワードシップ・コード策定により、ROEを目標値とした稼ぐ力の向上や株主との対話の充実の必要性が高まったが、その役割がさらに広がった格好だ。