フォーブス ジャパン編集部が今回、「『財務』を経営の武器にしている会社」を選定した基準は、昨年に引き続き、ファイナンスは飛び道具ではなく、経営資源の配分にいかに貢献するか、という観点から、1. グローバル対応や高機能化などを狙った組織構築 2. CEOをはじめビジネス側との連携による企業価値への貢献 3. IRや資金調達などの資本市場との対話、という3つの視点だ(選定10社は次項で紹介)。
なかでも、3.の中に含まれる「ESG・非財務情報の開示と企業価値の向上」、2.に含まれる「イノベーションとの連携」にフォーカスした。ファイナンス部門をめぐる新しい環境変化に加えて、従来からの課題であった「CEOを事後フォローする帳簿屋のCFO」からの脱却も引き続き、過渡期だ。
「コーポレート・ガバナンス改革により、形式だけ良くなった企業は多い。ただ、“質”が伴っていなければ、持続的成長や中長期的な企業価値の向上につながらない。例えば、資本市場の論理がわかり、投資家にしっかりとした説明ができているか、対話できているか、というと十分ではない企業が多いのではないか」(谷口)
選定企業の中で、注目企業として取材したエーザイは、資本市場との対話という観点を評価した。ファイナンス部門で年間700件の面談を行い、海外機関投資家からの高い信頼を得ている。CFOがリードする優れた組織としての評価。さらにエクイティ・スプレッドを評価指標とした「ROE経営」、価値創造のためのESGの取り組みを行い、その両立を目指している点も評価した。
もう1社、ベンチマークすべき事例として、米スリーエム(3M)を取り上げた。世界を代表するイノベーティブ企業として知られ、長期的成長を支えるイノベーションを量産する仕組みに、ファイナンス部門が密に関わっている。相反するといわれている、ファイナンス部門とイノベーションの連携について、学ぶべき点は多い。
「企業価値の最大化に向けた未来像を描き、経営戦略、中でも重要なイノベーション戦略を財務面から見極め、支援し、リードする──。本来のCFOの役割のひとつを全うしているいい事例だ」(日置)
今回の選定にあたり、もうひとつ議論に上がったのは、「グローバルに競争していくためには、コーポレートの作り方から変えて、CFOの役割を再定義する必要性」だ。ただ一方で、この課題は15年前から変わっていないという問題がある。経営環境の変化が激しい中、変化に対応できるファイナンスのリーダーシップがこれまで以上に必要になるだろう。
■選考にご協力いただいた方々
谷口宏◎日本CFO協会専務理事・事務局長。CFO本部社長。1989年東京大学経済学部卒業後、住友銀行(現三井住友銀行)入行。2000年日本CFO協会を創設、専務理事に就任。国際財務幹部協会連盟(IAFEI)評議員。
日置圭介◎デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員パートナー。早稲田大学大学院会計研究科非常勤講師。日本CFO協会主任研究委員。著書『ファイナンス組織の新戦略』。