世界最大のEV市場である中国市場は政策の後押しもあり、今後さらなる成長が見込まれている。中国政府は昨年には35万1000台だったEVの年間販売台数を、2025年には700万台まで引き上げたい考えだ。また、同国で操業する全ての自動車メーカーに対し、2019年からは販売台数のうち一定の割合をEVとすることを義務づけている。
テスラは現在、米国の工場で生産したEVを中国向けに輸出している。だが、中国での売上高が同社全体の売上高に占める割合は、ごくわずかだ(2016年は14%に当たる11億ドル、約1250億円未満となっている)。ただ、これは中国での販売価格が高率の関税などによって高額となり、米国内に比べ約50%増しとなっていることも一因と考えられる。
外国メーカーが自国で生産した自動車を中国に輸出する際には、25%の関税がかけられる。そして、その影響を避けるために中国国内で生産したい場合には、地元企業との合弁会社を設立しなければならない。合弁事業ではパートナーと利益を分け合わなくてはならないほか、場合によっては知的財産権の一部も共有することになるため、テスラはこれまで合弁による中国進出には否定的だった。
上海市との合意によって、テスラは市内の自由貿易区(特区)に自社工場を建設し、単独でEV生産を開始することになる。この特区内で生産された自動車は輸入品として扱われ、25%の関税がかけられることになる可能性が高いが、それでも中国国内の自動車生産のエコシステムやサプライチェーンを活用したり、人件費を抑えたりすることが見込めるため、テスラとしてはコスト圧縮や生産効率の向上を期待できるだろう。さらに、特区の工場をアジア諸国への輸出拠点として利用することも考えられる。そうなれば、輸送コストの削減も可能になるはずだ。
工場の完成はまだ先のことになるが、その稼働はテスラの企業価値を大幅に高めることになるだろう。例えば、中国での拡販によって2024年のEV・ハイブリッド電気自動車(HEV)市場におけるテスラ「モデル3」の市場占有率が11.5%程度、「モデルS」と「モデルX」の市場占有率がそれぞれ1.2%程度に引き上げられれば、利ざやと価格は現在と同水準と仮定した場合、同社の企業価値は現在の予測よりも25%以上引き上げられる可能性がある。