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2017.11.08

業界を脅かす、孫正義の「起業家的」投資術

Photo by Tomohiro Ohsumi / Getty Images


つまり、孫さんの出資は全部、パラダイムが変わる瞬間に賭けているんです。いまはデバイスの進化としてVRやAR、MR。データについては全てのものがネットにつながるIoT、莫大に増えてくるデータを処理するためのクラウドAIというように、Web3.0のパラダイムが登場しています。

そこでこれからイケそうなものがあったら、ステージが到達していなくてもドカッと投資する。それがソフトバンク・ビジョン・ファンドの強いところなんです。

すごくシンプルな話なのです。勝てそうなチームがあったら、そこに必要な金額を出す。今までの投資家はPLとかKPIとかを見て決めていたけど、ソフトバンク・ビジョン・ファンドは、起業家的な投資の考えを持っている。

インドのコマースは来る。インドのコマースで勝ちきるためにはこのくらいの資金が必要。勝ちきるために必要な資金が決まると、創業者や他のコアメンバーのダイリューションとして納得できる金額を交渉してバリュエーションを決める。こうした起業家目線で投資をしているのが、ソフトバンク・ビジョン・ファンドの恐ろしさです。

ビジネス自体は初期のステージにもかかわらず、出資額はレイター並み。お金を出すかどうかの意思決定が、実に起業家的なんです。

「地図とコンパスを手に入れた」

イギリスのARMホールディングスを買った時に、孫さんは「地図とコンパスを手に入れた」と言いました。ARMホールディングスは、スマートフォンやIoT端末を始めとしたあらゆる電子機器に搭載される半導体を設計する会社です。

さっきの議論を踏まえれば、自動走行車が来るとすれば、一番重要になる走行データを抑えた人がこの時代を制するという仮説が立てられます。この仮説は正しいにしても、どうやって取るかという方法や、どんなものを集めるかといった肝心なところが良く分かりませんよね。このHOWの部分はトライアンドエラーの繰り返しで埋めていくんです。

2016年7月のARMホールディングスへの出資もかなりわかりやすい。彼らは次代のコアになる部分、つまりは今から5年後のものを作っているのです。こういう企業を抑えておけば、4年後にはここ、5年後はここまでできるというおおよその見通しがわかる。これがロードマップ=地図とコンパスです。それがあれば投資の意思決定はかなりスムーズになりますよね。しかもそれで見つけた企業に対して、普通なら億単位で投資するところに100億以上を出してしまうのだから恐ろしいですよね。

実はこうしたメソッドは、アリババへの投資も同じです。ソフトバンクは、アリババのジャック・マーCEOが「金は要らない」と言った、まだほとんど何もない頃に10億円以上を出資しています。その結果、アリババが勝ちました。この成功体験は、孫さんの中でも強烈なものだったんでしょう。

繰り返しになりますが、長期視点で10年後に何が来るかの予想は立てやすいんですよね。その中でどういういう会社が勝つかは仮説検証だから、それをいかに早く適切に回すかが争点になると思うんです。
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文=國光 宏尚

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