「兄弟が上に2人いたので、5歳頃から百科図鑑を読んでいて、そのなかに出てくる星や宇宙には興味がありましたね。それに、もともと自然を見たりとか、月を観察したりとか、そういうことは好きでした。それもあり、大学生のとき、NASDAがやっていた種子島スペーススクールに参加したのです。参加者は50人くらいで、高校生から大学生、大学院生くらいまで、男女比は6対3、全国から集まってきていて、その後も東京や福岡などで同窓会なども開いて交流が続いていた。そのなかのひとりに、いまHAKUTOのチームで通信システムをメインで担当している清水敏郎さんがいたのです」(清水氏にはこのシリーズの前々回に登場)
種子島での出会いから10年以上を経て、間野は清水から自らの運命を決定的に変える誘いを受ける。
「清水さんがGoogle Lunar XPRIZEのプロジェクトをやっているというのは聞いていて、面白そうだなとは思っていました。ちょうど私も就職活動とかしていて、このまま研究者としていくのか、エンジニアとして会社で働くのか迷っていたときに、『ユーリズナイト』というHAKUTOのイベントに誘われたのです。『ユーリ』というのは、世界初の有人宇宙飛行をしたユーリ・ガガーリンのことで、作家さんや音楽家の方が宇宙について語るトークショーでした」
将来的にはHAKUTOの本を書きたい
イベントに参加した間野は、そのままHAKUTOでプロボノメンバーとして活動をスタートさせる一方で、一般の会社にも就職して、数値解析エンジニアとしても働き始める。
「数値解析エンジニアというのは、パソコン上でシミュレーションをして、力学の計算ですとか、水とか風の流体の動きを計算する仕事です。例えば、車のボディのかたちを少し変えると、空気の圧力が変わったりして、燃費が良くなったり悪くなったりする。実際の車のボディをつくるとお金も時間もかかるのですが、パソコンの中で数値をちょっといじってあげるだけで済む。そのうえトライ&エラーが何度もできるので、ひじょうにコストダウンになるということで、ここ20年くらい注目されはじめてきた仕事です。いまは再生可能エネルギーの分野で、風の解析をしています」
本来「プロボノ」というのは、「専門分野を生かして働くボランティア」という意味合いだが、間野の専門分野である数値解析と、現在のHAKUTOにおけるSNSやメールマガジンの発信とでは、かなり距離は遠いようにも思える。
「何かを人に伝えたいという気持ちは大学時代からあったんです。メールマガジンのコーナーを担当させてもらったり、学生記者というのもやったりしていました。もともと書くのが好きで、ブログも個人的に発信していた。HAKUTOと出逢ったとき、ちょうどその分野を担当する人もいなかったし、ボランティアでもできることだったので、有無を言わず参加しましたね」
それまで密度の濃いキャリアを経ながら、プロボノメンバーとしてHAKUTOに参加してすでに3年半、解析エンジニアとしてこのままやっていくのか、それとも人に何かを伝える仕事を本格的に展開していくのか、間野の次のステージはどこにあるのだろうか。
「HAKUTOに関する家での仕事は、毎日実勤1時間くらいですかね。もちろん記事を執筆しているときはずっとやっていたりしますが。これまでずっとこのプロジェクトを見守ってきたので、できれば将来的にはHAKUTOの本を書きたいと思っています」
プロボノメンバーとしてHAKUTOに参加して、「宇宙」に触れてきた間野だが、こんな夢もあるという。
「HAKUTOのリーダである袴田代表が語る、宇宙産業が盛んになり、宇宙船が飛び交う世界も見てみたい。漆黒の宇宙をバックに地球を見て、宇宙と地球の存在をリアルに感じたいのです。そして、将来的には月の洞窟探検もしたいですね(笑)。それと数値解析エンジニアとして、人間の社会活動と自然環境とのつながりやその影響についてずっと関わってきたので、宇宙開発は環境保全にも目を向けながらスマートに進めてほしいですね。環境は私のライフワークでもありますので、見守っていきたい。そういうことも含めて、これからも自然や科学の素晴らしさをたくさんの人に伝えていきたいですね」
そのとき、新たに間野がどんな本を書くのか、いまから楽しみだ。
*Forbes JAPANは、来年の月面探査用ロボットの打ち上げまで、HAKUTOプロジェクトの動きを月一で追いかけていく。
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