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2017.11.07

全国の水道事業体、「9割が黒字」というフェイク

岩手中部水道企業団局長、菊池明敏

日本は全国津々浦々、世界トップレベルの水質基準の水が蛇口から直接飲めるという、世界でも類まれな国だ。しかも、1リットルの水を約0.1〜0.4円程度の廉価な利用料で使うことができる。物価の安い東南アジアですら、500mlの飲用水ペットボトルが20円から30円程度の価格であることを考えると、驚異的なレベルにあると言える。

行政が運営する病院や交通インフラなどは赤字経営が散見され、批判の矛先が向かうことも多い時代となった。一方、全国の水道事業体の9割が黒字を計上しているのは、やや意外ではなかろうか。しかし、「この黒字はフェイク」、と言うのは岩手中部水道企業団局長の菊池明敏だ。

日本では1960年から急速に全国で水道管が敷設されたが、現在、劣化に伴う更新時期にさしかかっている。水道管の寿命は法定耐用年数では概ね40年、実際の管路寿命は40〜60年程度とされているが、多くの事業体は必要な設備更新が進んでいない。本来行うべき更新をするには、現在の更新投資コストを3〜4倍にしなければならない。だからこそ菊池は「黒字はフェイク」だと言う。

水道事業における変革の先駆者

菊池は、2003年に岩手県の北上市役所水道部に配属。その後、既に老朽化していた水道管からの漏水を減らすため、町中の密集したエリアの最も古い管を入れ替えていった。それにより、年間数千万単位のコスト改善をもたらしたのである。一方で、北上市、花巻市、紫波町が抱える水道事業を、一つの企業体へと統合する動きにも大きく関わった。

実は現在、全国の水道施設は本来発揮出来る力の6割しか使っておらず、過大投資となっている。なぜなら、人口増加を見越して作った過分な施設が存在する一方で、水道使用量は設備やテクノロジーの進化によって減少しているからだ。10〜20年前の水洗トイレを1回使うと20リットルの水が流れたが、最新式ではわずか4リットル程度である。これから先、人口は減少していく。この状況下では水道事業の設備は縮小を余儀なくされる。

先の統合のきっかけは、「近隣三市町の水道事業の統合は考えないのか?」という地方議員からの質問だった。「質問を受けたからには、何か行動に起こさなければいけない」ということで、2004年、三市町で『在り方委員会』という会議体を作ることとなった。菊池自身は統合の重要性を感じていたが、役所の上層部にとっては面倒な話で、到底成就しないだろうと感じていた。

ただ、会を設計するにあたり一つこだわったことがあった。それは、しがらみと関係なく将来を考えられる若手・中堅で意見をまとめるようにしたことだ。それでも「統合は難しい」という結論になると予想したが、全く違う結果が待っていた。
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文=加藤年紀

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