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2017.08.23

「自己判断で治療を止める」人を減らす、遠隔医療の一歩先

情報医療(MICIN,Inc.)代表取締役 原 聖吾(photograph by Martin Holtkamp)


発熱、痛み、怪我、発疹など急性の症状が出た際には、医師の対面診療を受けて適切な治療をしてもらいたいと思うのが普通だろう。そういうケースには遠隔診療は適していない。

ただし、慢性疾患などで長期治療をしている人にとっては便利だ。毎回同じ薬を処方してもらうために、30分かけて病院に行き、1時間待ち、30秒医師と対面し、30分待って会計し、処方箋を持ってまた薬局で待つのは、誰でもしんどい。自宅やオフィスにいながらにしてPCやスマホで、メールやビデオ通話によって医師の診察が受けられ、カード決済で支払いが終わり、家に処方箋または薬を送ってくれる遠隔診療サービスは、願ってもないサービスであろう。

curonはさらに、患者の持つ血圧計や体組成計などのデバイスがBluetoothでスマホに連携でき、検査値がリアルタイムで医療機関に共有される機能が特長だ。

「来院時の検査数値だけでなく、日々の数値の変動がグラフで見えるので、診断がしやすく、薬の選択や処方量など、より的確な治療が可能になる。遠隔診療ならではのメリットだと医師ユーザーから評価をいただいています」と原は言う。

治療中断者をいかになくすか

目指すものは、遠隔医療の一歩“先”にある。それは医療にAIを導入することだ。情報医療は、病院や健保組合に蓄積された過去の患者のデータと、遠隔診療によって新たに得られる治療および病状の経過のデータをAIに学習させ、「医療指導AI」を生み出そうとしている。

現在、京都大学や、医療機関と連携し、開発および共同研究を行っている。花粉症を治療する舌下免疫療法の患者に対する実証実験では、8カ月の治療継続率が、対面診療83%に対し、遠隔診療患者では94%と、優位な数値が出ている。

高血圧症、糖尿病、アレルギーなどの慢性疾患患者は、長期におよぶ継続的な投薬治療が必要だが、「忙しくて通院が難しい」「お金がかかる」「体調が(一時的に)良くなった」などの理由で、自己判断で治療を止めてしまう「治療中断者」が少なくない。厚生労働省の調査では、「糖尿病が強く疑われる人」は950万人、そのうち、実際に医療機関で治療を受けている糖尿病患者の数は317万人いるが、その約1割が1年以内に治療を中断。東京女子医科大学の調査では、痛風患者の3割が1カ月以内に、5割が1年以内に治療を中断するという。
 
その後、合併症を伴ったり重症化してから医療機関の診察を受けることになる。糖尿病は悪化すれば四肢切断や失明、高血圧症は脳梗塞や心筋梗塞を引き起こす。再び病院にやって来た時には、手の施しようがないことが多い。

「医療者はこのように数値が推移する患者に対し、どの治療を行えば、数値はどう変わり、どのような回復をするのか、あるいはここで治療を中断すれば、どのように病状が悪化していくのか、といった病状予測や治療計画に利用できます。さらに、慢性疾患の患者に対する最も効果的なコミュニケーションを教えてくれる。このような属性でこんな状態の人に対し、いつ、どんなメッセージを送れば、どんな対面指導をすれば、離脱せずに治療を継続してくれるのか。AIが医療者に指導の仕方を教えてくれたり、医療者の代わりに指導を行ってくれるようになる」と原は言う。
 
重症患者になってから救うよりも、重症患者をつくらないこと。医療の前提を変えるAIが、生まれようとしている。


原 聖吾◎東京大学医学部卒。国立国際医療センター(勤務医)、日本医療政策機構を経て、スタンフォード大学院MBAを取得。マッキンゼーを経て、創業。「保健医療2035」のメンバーとして医療政策提言策定に従事。

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文=嶺 竜一

この記事は 「Forbes JAPAN No.39 2017年10月号(2017/08/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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