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2017.08.23 17:30

「自己判断で治療を止める」人を減らす、遠隔医療の一歩先

情報医療(MICIN,Inc.)代表取締役 原 聖吾(photograph by Martin Holtkamp)

末期の肺がん患者の苦痛に満ちた一言が、若き医師を動かした。そしてAIの天才との偶然の出会いが、遠隔医療×AIという解へと導いた。

東京大学医学部を卒業し、高度急性期病院である国立国際医療センターで医師をしていた原聖吾はある時、呼吸困難に苦しむ末期の肺がん患者に、こう言われた。

「こんなに辛いってわかっていたら、1日100本もタバコを吸わなかったのにな」と。この一言で原は、一人の臨床医として生きるのではなく、医療の仕組みを変えることを決めた。
 
日本医療政策機構に勤務した後、米スタンフォード大学に留学してMBAを取得し、マッキンゼーに入社。医療分野のコンサルタントとして4年働いた。2015年、マッキンゼーの同僚でヘルスケア関連企業に対してIoT導入をサポートしていた草間亮一とともに、起業を決意した原たちに、ニューヨークのバーで、出会いがあった。
 
東京大学工学部システム創成学科を首席で卒業し、学生時代にクラウドファンディングサービス「Readyfor」、ニュースアプリ「Gunosy」の創業にも関わった巣籠悠輔はその時、米国グーグル社に勤務していた。

巣籠は東京大学大学院時代から、日本のAI研究の第一人者である松尾豊特任准教授の下で研鑽を積み、その後深層学習による「時系列データ処理」を研究していた。会話の内容から次に発せられる言葉を予測したり、過去の言動から未来の言動を予測したりする技術だ。情報を時系列に読み解き、“未来を予測する”AIである。
 
医療とAIが出合った瞬間だった。「最先端医療によって重症患者を治療するよりも前に、健康管理や医療指導にAIを活用すれば、重症患者そのものを減らすことができるのではないか」と3人は話し合い、意気投合した。数か月のちに「情報医療」を創業。原はCEO、草間はCOO、巣籠はCTOとなった。
 
現在、遠隔医療アプリ「curon」を運営する情報医療CEO原はこう語る。

「人が納得感をもって、生きて死んでいける世界をつくりたい。今、こんな不摂生をしたり、無理をしたり、病気を放置したら、こんな死に方をするとわかって生きるなら、それはその人の選択だと思う。でも多くの人は自分の死に方がわからないまま生きて、最後に後悔をしながら死んでいく。それは辛い。僕らがつくっている仕組みは、そんな後悔を減らす。皆が未来の自分の健康を知り、今の生活や治療を選択し、その結果として長く健康に生きて、納得の最期を迎えられるように」。
 
日本の遠隔診療(オンライン診療)サービスは15年、突如として始まった。それまで日本の医療は対面診療を基本の考え方とし、遠隔診療は通院が難しい離島やへき地に限定されていた。それが、15年8月に出された厚生労働省の通知により、事実上の解禁となったのだ。それ以降、IT大手やベンチャーなど10社ほどが相次いで遠隔医療サービスを展開している。

情報医療が16年4月にリリースした日本初の遠隔診療スマホアプリ「curon」は約300の医療機関が導入している。利用者は高血圧症、糖尿病、アレルギー、精神疾患など、慢性疾患の患者に加えて、禁煙外来や男性外来、女性外来等の疾患領域でも多く利用されている。
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文=嶺 竜一

この記事は 「Forbes JAPAN No.39 2017年10月号(2017/08/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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