AIは人間をはるかに超える能力を持っていると考える学者や専門家も少なくなく、コンピュータが進化するにつれてシンギュラリティの時代は近づきつつある。保健医療分野においても、医師や看護師等の専門職の仕事の一部が今後、AIに代替される可能性は高い。もしかすると、これまで生身の医師では介入不可能であるとされた領域にAIが介入することで、新たな可能性が見出されるようになるかもしれない。
皮膚がん検査へのAI導入が進む
ここではまず取り上げるのが皮膚がん検査だ。以前は「不治の病」と言われていたがんは、近年の医療進歩により発見が早ければ助かる見込みも高い病気へと変化した。しかし、皮膚がんは例外だ。たとえ早期であろうが、経験年数を経た皮膚科専門医でも正確な診断を下すのは難しい。
そんななか、米スタンフォード大学の研究者らは約13万名の皮膚病の病理画像を収集してデータベースを構築し、外見だけでがん診断が下せるようにした。すでに1000にも及ぶ範疇、128万画像の識別に成功している。2017年1月25日付の英科学誌『Nature』では、「最も身近な病気であり、なおかつ最も致命的な皮膚病でさえも、人間の皮膚科医と同等の診断精度を発揮可能」とした。
認知症検査法へのAIの本格導入も進んでいる。日本では2025年、75歳以上の後期高齢者の数が最高となり、それに伴い認知症患者の数が増えることが予想されてる。
認知症検査法のひとつに「PET」と呼ばれるものがある。本来がん検診に用いられているものであるが、認知症を引き起こす原因物質であるアミロイド斑を発見できることから、アルツハイマー病へと発展する前の状態を特定するのに有用であると考えられている。とは言え、熟練の専門医でない限り、スキャン画像を読み取ることは困難である。
そこで、人間の医師が解釈不能なスキャン画像に対し、代わりにニューラルネットワークが読み取り、アルツハイマー病を発症した人とそうでない人の脳の画像データベースを照合しながら、アルツハイマー病を発症しているかどうかを見破る検査法も登場している。こうしたAIによる診断精度は高く、約90%の正確さでアルツハイマー病の発症の有無を判定することができるという。
また、業務受託サービス大手インフォデリバは3月、高齢化が進む北海道内にてAIを活用した認知症予防サービスの開始を発表した。スマートフォンで歩行速度を継続して計測し、速度変化を参考にしながら認知症の兆しを見るという。
心臓発作を高精度に予測可能
塩分過多の傾向にある日本人にとって不可避な病気であり、日本人の三大死因のひとつに数えられているのが心臓病だ。しかし、症状が比較的軽い状態で発見できれば、その分致死率は低くなる。英ノッティンガム大学で開発中のアルゴリズムは、72.8%の確率で心臓発作を予測可能であるという。
さらに改善の余地があると考えた同大学の研究者らは、ニューラルネットワークで動作する機械学習アルゴリズムへと改良。新アルゴリズムでは、患者の健康パターンからリスク因子を特定することで、74.5~76.4%の確率で心臓発作を予想可能であるとした。こうしたAIの精度は、米心臓協会(American Heart Association=AHA)や米心臓病学会(American College of Cardiology=ACA)のガイドラインが規定する人間の能力平均を上回るレベルであると報告されている。
さらに、コンサルティング大手アクセンチュアの同僚によって設立された米国のスタートアップFEDOは、質問の回答内容から健康状態を点数化し、心臓病を含む生活習慣病の罹患リスクを予想可能なAIシステムを開発。医師が普段の診察で気付かないような患者の変化にも敏感に反応するようになっている。
生活習慣病は日頃の生活習慣を改めることで未然に防ぐことができる病気であるが、日々業務に追われている医師の現状を鑑みても、生身の医師が患者の生活習慣を24時間365日監視することなど不可能である。
AIが万能なツールであろうとも、原則としてAIが単独で診療行為を行うことはあってはならない。厚生労働省は最終決議によりこう結論を下している。
AI技術のうち医療機器に該当するものにおいては、医薬品医療機器法に則り、その安全性および有効性を確保する必要がある。人間の能力をはるかに超えるAIが医師の手や足となり、その結果互いにウィンウィンの関係が構築されていく時代が間もなく到来する。
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