テクノロジー

2016.10.18 15:00

世界初「8Kロボット手術」 最先端技術で医療はどう変わるのか?

写真=アーウィン・ウォン

今、放送技術で注目される8K、ゲーム業界で導入が進むVR(バーチャル・リアリティ)。こうした技術が、医療業界に変革をもたらそうとしている。何が変わるのかー。

リオデジャネイロ・オリンピックで、世界初の実験が行われていたことはあまり知られていない。

NHKはオリンピックを「8K」映像で試験放送した。受信できるのは、全国のNHK放送局に配備された専用テレビのみ。NHKは2020年に東京五輪の実用放送を目指しており、リオの試験放送は「映像革命」が幕を切ったと言える。

何が画期的かというと、テレビの常識を超えたリアルな映像体験を生み出せるからだ。8K映像は、従来のハイビジョン放送の16倍にあたる3,300万画素の超高精細画像で、その密度は人間の網膜に迫ると言われる。しかし、8K映像が私たちの生活を根底から変える革命を起こそうとしているのは、テレビ放送とは違う場所にあった。

試験放送が行われていた8月上旬、NTT東日本関東病院。その日、杉本真樹医師らのグループが、志賀淑之医師の執刀のもと、世界で初めて、8K内視鏡での「ロボット手術」の撮影に成功したのだ。

「従来の内視鏡とは比べ物にならない超臨場感だ。外科手術はもちろん、医療そのものを大きく前進させるだろう」。杉本医師は8K映像への期待をこう語る。なぜカメラの映像技術が、医療に革命を起こすのか?

その背景にあるのは現在、急速に進んでいるロボット手術の普及だ。患者の身体に5mmから1cmほどの小さな「穴」を数カ所開け、「ロボットアーム」を差し込んで行う手術。執刀医はネットワークを通して映し出される患者の体内の映像を見ながら遠隔操作で手術する。メスで腹部を大きく切り裂く従来の開腹手術とは異なり、患者の負担(医学用語で「侵襲」という)が少ないことから「低侵襲手術」とも呼ばれている。

ロボット手術で執刀医の“目”の役割を果たすのが内視鏡。執刀医が見る8Kの内視鏡映像は、「掴めそうな」ほどリアルだ。「色彩が豊かで、まるで臓器が目の前にあるかのように見える。毛細血管の中を流れる赤血球が見えそうなほどに細部が鮮明に映し出され、立体的な奥行きを自然に把握できる」と杉本医師は話す。

VRで見た肋骨内

患者はVRで自分の体内の問題を見て、健康意識が変わる。

8Kの鮮明な内視鏡映像は手術の大きな戦力になる。たとえば、手術中の出血だ。外科手術中、執刀医は常に臓器・組織を傷つけて出血させないよう、注意を払っている。出血すると臓器が真っ赤に染まって判別しにくくなり、医師の正しい判断を阻害してしまうためだ。

ロボット手術では、触覚を執刀医に伝える技術がまだ確立されておらず、映像から得る情報が頼り。執刀医は、内視鏡の視覚情報と、過去の手術の経験とを結びつけながら手術を進める。内視鏡映像が鮮明になるほど、手術中の感覚はよりリアルに近づく。

「8Kの内視鏡映像は、従来の内視鏡とは一線を画した臓器の変形や色彩の一瞬の変化が捉えられる。ロボット手術のアームにはない触覚が伝わるようだ」

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文=森旭彦

この記事は 「Forbes JAPAN No.26 2016年9月号(2016/07/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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