日本の高等教育機関が「硬直化」する理由

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前回の記事で、東京大学を世界39位としたTimes Higher Educationの世界大学ランキング(2017年)に触れたところ、フェイスブックに以下のようなコメントをいただいた。

"東大が世界39位と言っても、理系分野ではさほどランクは下がっておらず、理系科目はトップ10内を維持、さらに物理と化学はいまだにトップ5にいます”

調べてみると、Nature誌の研究に特化したランキング「Institutional Ranking 2016」では東大は世界で6位であり、各国の研究所を除くと、大学ではハーバード、スタンフォードに次ぐ世界3位。MIT、オックスフォード、ケンブリッジ、バークレーよりも上位に位置していた。京都大学も19位にランクイン。

別の世界ランキング「QS World University Rankings by Subject 2012」では、東大のシビル・エンジニアリング(都市計画などの社会基盤学)が2位にランクインしている。理系分野においては確かに非常に評価が高いようである。

ランキングは一つの指標にすぎないが、国民に「無償化すべき高等教育である」ことを示すにはわかりやすい数字でもある。一方で、理解を得るためには、数字には見えずとも「時代に合わせて意欲的な改革をしている」という姿勢も必要かと思う。前回はその一例として、秋田の国際教養大学を取り上げた。

しかし実際にはそうした動きは鈍い。なぜなのか。今回はその背景にある問題を紐解いていきたい。

改革を進めたくても、できない理由

国内の某私立大学の経営に長年携わっていらっしゃる方にお話を伺ったところ、日本で改革が進まない根幹には「ガバナンスの問題」があるという。

端的にいうと、既存の大学では従来のやり方を踏襲する方が楽だと考える教授陣が、改革を推進できないように妨げる傾向にある、と。本来は諮問機関であるはずの教授会が、決裁権をもつ機関として学長や理事会の改革を阻止するケースが後を絶たない、というのだ。

教授会の権限が強すぎるという点については文科省もこれを問題視し、平成26年には、学校教育法93条が改正され、教授会の位置づけは見直されることとなった。文科省ホームページにも、同法改正の意図として「大学が、人材育成・イノベーションの拠点として、教育研究機能を最大限に発揮していくためには、学長のリーダーシップの下で、戦略的に大学を運営できるガバナンス体制を構築することが重要である」と明記されている。

もう一つ、大学教員の高齢化も、改革を妨げる要因になっているのかもしれない。折しも先日の新聞で、日本の大学では40歳未満の教員の割合が13年度で約25%と、1986年度の約40%から大幅に落ち込んでいることが報じられていた。国立大では法人化を機に国からの運営費交付金が減り、人件費の圧縮もあって若手が大学内のポストに就きにくくなったことが、その背景にあるという。

改革派の学長が選ばれない仕組み
 
複数の大学経営者のお話では、大学のガバナンスにおいて教授会と同じくらい重要なのが学長選挙だという。国立大学法人法によれば、学長選考会議は、外部の民間委員で構成される経営協議会のメンバーと、主に内部の関係者で構成される教育研究評議会のメンバーが参加するが、後者が全体の2分の1以上でなければならないと定められている。

株式会社でいうと、社員が過半数である会議で社長を選ぶような状況だ。自分たちの雇用を守りたいと考える社員が改革派のトップを退けるインセンティブが働くことは想像に難くない。少なくとも経営協議会のメンバーを3分の2以上とする、あるいは海外の主要大学のように、既得権益から独立した学長選考委員会をつくり、そこに人選を委ねることはできないだろうか。
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文=小林りん

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