ビッグデータがビジネスを左右する時代、もっとデータの本質や背後に隠れる世界を体感できないものか。そうして生まれたコンセプトが、Infoexperienceこと「情報の五感化」である。
吉祥寺のハモニカ横丁に行くことがあれば、最近生まれたばかりの新名物「ハモニカハイ」を頼んでみてほしい。すぐに酔っ払ってしまうかもしれないし、酔っ払わないかもしれない。ハモニカハイは、そのときの政権の支持率によってお酒の濃さが変わる飲み物なのだ。
内閣の支持率が下がると、アルコールの濃度が上がる。内閣の支持率は政治に興味がない人にとってはただの数字だが、アルコールの濃度になるとそれが急に身近に感じられる。
日清食品には株価連動型のKABUTERIAという社員食堂がある。社員に株価を意識してほしいという意図でつくられたこの食堂では、株価が上がるとマグロの解体ショーなどイベントが開催され、株価が下がると質素な食事になるという。株に興味がない人にとっては、生活の中で自社の株価を意識する瞬間はそうないのだろうが、社員食堂でマグロの解体ショーをやっていたら否応なしに意識をしてしまう。
アメリカのピッツバーグには「コンフリクト・キッチン」と名付けられたレストランがある。ここではイランやアフガニスタン、キューバや北朝鮮などアメリカと衝突(コンフリクト)している国の伝統的な食事が出される。
スタッフはできる限りその国に足を運び、現地の人への入念なインタビューを行うという。レシピや食文化のことだけではなく、恋愛や宗教、経済やメディアなど文化や風俗についてもリサーチし、レストランで食事を提供する際の包み紙に印刷する。敵対する国という印象や、その国に対する無関心を、食を通して解消することにつながっている。普段は話しづらい政治的なことも、食事をしながらであれば議論しやすいというメリットもある。
情報やデータに興味をもってもらう。難解なデータをわかりやすく伝える。その手法の代表的なものは、インフォメーショングラフィックスに代表される「情報の視覚化」だろう。地下鉄の路線図のような紙の上の表現はもちろん、動画やブラウザ上でのインタラクティブなものまで、実に多様な表現がなされている。とりたてて新しい表現ではなく、むしろ今では情報を伝える上で当然の前提条件になっているとさえ感じる。
冒頭に紹介したハモニカハイやKABUTERIA、コンフリクト・キッチンは情報を視覚化するにとどまらず、味覚化しているといえる。味覚化された情報は視覚化された情報とは質も量もまったく違う。
データが重要性を増すと同時に、その活用法や見せ方、伝え方の重要性も増しているからこそ、視覚化にとどまらない情報の表現手法が求められているのではないか。そんな仮説をもとに、情報の味覚化をはじめとするデータ×クリエイティビティの新しい手法を「情報の五感化=Infoexperience」と名付けた。