自分たちでも情報の五感化に取り組むべく、昨年、「景気のケーキ」なるものをつくってみた。
電通総研がリサーチしている「消費マインド調査」の「1年前と比較してみるお金の使い方の変化について」という項目のデータをケーキにしたのだ。何の変哲もないデータをケーキにしてくれたのはcineca(チネカ)の土谷みおさん。土谷さんは映画をモチーフにした物語性のあるお菓子をつくるコンフェクショナリーアーティストだ。
1年前と比較してお金の使い方はどう変化したかという質問に対して「増加志向」と答えた6.1%の人を土谷さんは「右肩上がりのババロア」で表現。安酒のジンでできたゼリーとオレンジのババロアの比率が右肩上がりで増えていくというもの。
右肩上がりの「増加志向」と相反して減る、安酒の象徴「ジン」でつくった青いゼリー
「メリハリ志向」と答えたのは27.7%。オンを白ワインでつくったグリーンのゼリーで、オフの状態をほうじ茶でつくった赤いゼリーで「ON OFFゼリー」とした。
「節約志向」と答えた37.2%の人たちは「開けゴマプリンと節約の賜物ゼリー」になった。節約の末にたまっていくお金を、口の中で少し刺激を感じるゴールデンキウイのゼリーで表した。その上にはゴマプリン。宝物など大切なものが隠された扉を開ける呪文「開けゴマ」にかけている。
「開けゴマプリンと節約の賜物ゼリー」。節約の結果、たまっていくお金をキウイで表現
最後に「変化なし」と考えている29.1%の人たちが、「平行線ゼリー」で表現された。ウーロン茶ゼリー、紅茶ゼリー、緑茶ゼリーでつくられ、それぞれ色は違うものの、同じ茶葉でできているため、それらを同時に食べてもマリアージュは起きず、味は“平行線”というもの。
土谷さんの創造性によって、無機質なデータは魅力的なケーキとなった。耳でコンセプトを聞き、目で美しさを楽しみ、鼻で匂いを感じ、舌で味覚の変化を味わう。それまでにない体験に、会場を訪れた人たちは笑顔になった。消費者調査のデータがこれだけの人を笑顔にしたことが、かつてあっただろうか。
情報の五感化には、まだまだ可能性がある。例えばプロジェクト開始時のオリエンテーションをする際に、A4の紙に印刷したデータではなくて、「データのケーキ」を振る舞うところから始めてみる。データに対する理解度だけではなく、チームの結束も深まるだろう。味覚化以外にも、香りで、触感で、空間で、データとクリエイティビティの組み合わせは無数にある。
データが複雑さと重要さを増すなか、データはクリエイティビティをより必要としている。データはそこにあるだけだと、ただのデータだ。それをどう料理するか。新しい表現や体験がそこから生まれそうだ。
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鳥巣智行◎電通総研Bチーム所属。SoftBank「Pepper」の会話システムや、森永製菓の「おかしな自由研究」の商品開発を行う。マジックワードカードなど、新しいアイデアのつくりかたを開発中。