例えば、仕事で壁に突き当たり、自分に自信が無くなっているとき、なぜか、周りに虚勢を張っている自分がいることに気がつく。また、自分が価値の無い人間ではないかと悩むとき、なぜか、素直に他人を誉められない自分がいることに気がつく。
もし、そのような内省をされる読者がいるならば、冒頭の対談で河合氏が語った、もう一つの言葉を紹介しておこう。氏は、冒頭の言葉に続き、次の言葉を語った。
人間、本当の強さを身につけていないと、感謝ができないのですよ。
これも、まさに、的確な指摘。例えば、多忙を極める日々においても、部下に仕事を頼んだとき、相手が新入社員であっても、心を込め、「有り難う。助かったよ」と言えるマネジャー。その姿からは、静かな強さとでも呼ぶべきものが伝わってくる。
また、人生において、自分が与えられているものに感謝することなく、自分が与えられていないものに対する不平や不満を漏らし続ける人物。そうした人物を見ていると、どこか、心の弱さを感じる。
では、どうすれば、我々は、その「自信」や「強さ」を身につけることができるのか? 実は、河合氏が語る「謙虚さ」と「自信」、「感謝」と「強さ」の関係は、その逆も真実である。
例えば、自分より若い人や立場の弱い人に対しても、決して驕らず、謙虚に処することを心掛けていると、自然に、心の深いところに「静かな自信」が芽生えてくる。
また、誰かとのトラブルが起こったとき、その相手や出来事に対して、「ああ、この出会いも、出来事も、自分の成長に必要な何かを教えてくれている。有り難い」と、心の中で感謝することを心掛けていると、自然に、心の深いところに「静かな強さ」が生まれてくる。
そして、この「静かな自信」と「静かな強さ」。それこそが、我々が、生涯をかけて身につけていくべき「真の自信」であり、「真の強さ」に他ならない。
田坂広志の連載「深き思索、静かな気づき」
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