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2017.08.06 12:30

丸山珈琲の「思い」を叶えた、日本型クラウドファンディング


その後、丸山は「セキュリテ」上で、8本のファンドを組成した。2年半で組成したファンド全てを合わせると、募集総額4億8045万円、出資人数はのべ2301人にのぼる。個人投資家、生産者、ミュージックセキュリティーズ、丸山珈琲とそれぞれの信頼関係が醸成されていくうちに、ファンドの内容も「丸山の思い」に寄り添ったものになっていった。

丸山は現在、「コミュニティ・サポーテッド・コーヒー」という取り組みをはじめている。ファンドで購入した小規模高品質生産者のコーヒー豆をシリーズ化し、直営店舗やオンラインショップで販売している。美味しいスペシャルティコーヒーを楽しんでいただきながら、生産者の生活安定を支え、高品質なコーヒー豆の安定買い付けにつなげるー。こうした好循環を生み出し、持続的なコーヒーの品質向上につなげていく狙いだ。

丸山は「多くの個人からの意思のあるお金」でコミュニティをつくり、それぞれが有機的に成長していくことに意味があるという。

「我々の思いについて、社会貢献の側面も含めて共感して応援していただくことは、丸山珈琲にとっても生産者にとっても歩みを進めていくうえで、大きな勇気になります」(丸山)

IDB、JICAも注目する金融支援手法

ファンド総数695本、事業者456社、ファンド募集総額71億2495万円ー、日本最大規模を誇り、丸山珈琲をはじめとした中小事業者の新たな資金調達手段となったミュージックセキュリティーズのマイクロ投資クラウドファンディングはいま、世界から注目を集めている。

「Empathy Driven Funding(共感性に支えられた新たな金融手法)」。17年5月、中南米地域の地域開発金融機関である米州開発銀行(IDB)は、国際協力機構(JICA)との共同調査による報告書を発表した。英語、スペイン語で書かれた同レポートには、マイクロ投資クラウドファンディングが、中南米地域の地場中小零細企業向けの新しい金融支援になる、と記されている。

両組織が高く評価したのは、「共感性に支えられた個人投資家との関係」。多くの個人投資家は、事業者や事業自体が持つ「物語性」「創造性」「独自性」に共感し、また「地域への愛着」「挑戦を応援したい気持ち」を感じ、資金提供をしている。

小松曰く、「共感とリスク許容度は相関関係にある」ため、個人投資家は、事業期間中の分配や特典といった経済的リターンだけでなく、投資対象となる事業者や事業自体への関心が高い。そんな事業者と個人投資家の新しい関係を生む金融支援の手法が、中小零細事業者の持続的な成長をうながすとして注目されたのだ。小松はその価値を次のように話す。

「従来の金融は、『信用』を大事にしてきました。信用は、家柄、財産、国籍によって最初のスタートラインが違う。信用を獲得しようと思ったら、土地を担保に入れ、保証人を用意しなければならず、タダではない。いま、我々がやっている『共感』をベースにした金融は、そうした不平等がない。共感は無料で手に入れることができ、資産家であれ、少年であれ、スタートは一緒。誰にでも開かれている、平等な金融です」

そして、同社のマイクロ投資の特徴である「匿名投資組合契約に基づく有価証券の一種」が、世界にない独自の金融手法として「JAPANモデル」と評価された。

「匿名投資組合は、鎌倉時代に発祥した日本古来の地方金融システム『頼母子講(たのもしこう)』と共通点が多い。金融の融通を目的とする相互扶助組織に似た仕組みを法整備しているのは日本だけ。インターネットのテクノロジーと、その金融手法が結びつくと、小規模な事業者は思いやこだわりを持ちながら、新しい挑戦ができ、個人投資家との結びつきも強くなる。法整備が整えば、中南米をはじめ世界でも有効な金融支援につながる」(小松)

これは小松が00年にミュージックセキュリティーズを創業し、ミュージシャンを応援するためのマイクロ投資ファンドをはじめた時からの「思い」と同じだ。
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文=山本智之

この記事は 「Forbes JAPAN No.37 2017年8月号(2017/06/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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