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2017.06.18

地域の課題を「自分事」化する、鎌倉から広がるブレスト文化

カヤックの柳澤大輔CEO、鎌倉本社にて。社員増大に伴い横浜市にもオフィスを構え、この場所はコワーキングスペースとして使用。

2013年、鎌倉を盛り上げるために始まった「カマコン」について、事務局の渡辺みさきとひとしきり話に花を咲かせた後、彼女はぽつりとこう漏らす。

「定例会のゲスト名簿をつくっていると、一体いま何が起きているんだろうという不思議な感覚になるんです」

毎月定例会に参加したいという地方の「ゲスト」が後を絶たず、それが彼女には何かの胎動のように思える。「先日も鳥取県から15人がみえました。地方創生を担当する県庁職員の方だけでなく、学生さんもいらしたのです」と驚く。

カマコンの定例会とは、ブレスト(ブレーンストーミング)を行う場である。面白がったゲストは地元にもちかえり、現在まで23の地域に飛び火。福岡市、高崎市といった都市部から人口9028人の白馬村まで定例会が定着している。


毎月の定例会には約100名が参加。建長寺で開催されるハッカソン「ZenHack」など、これまでに多数のプロジェクトを実現している。

なぜブレストが地域活性化なんだ? 政府が言う地方創生と違うじゃないかと思う人も多いだろう。しかし、「ブレストは地域の活動に使える」と構想した、カマコンの中心人物、「面白法人カヤック」CEOの柳澤大輔はこう言うのだ。

「ブレストによって、自分たちのまちを良くしようという解決志向型の思考になります。自分の住むまちがどんどん好きになるし、参加することが楽しいと思う人が増えていくのです」

その確信に至る体験を、柳澤はこう語り始めた。「人はブレスト体質というものになれるのだなと、発見したんです」

持論を述べない、否定しない

カマコンは、13年、鎌倉を拠点とするIT企業7社が集まって発足した「カマコンバレー」に由来する。シリコンバレーにちなんだ名称だが、若き7人の起業家が意識したのは、「鎌倉宗教者会議」だった。東日本大震災の被災者を追悼するため、キリスト教、仏教、神道の宗教者が集うものだ。

教会の十字架を前に、袈裟姿の僧侶たちがお経をあげる。この宗派を超えた光景に感化され、7人は「競争よりも協力」「多様な価値観を尊重しあう」という思いで、鎌倉を盛り上げることにしたのである。

このとき、確信的に「ブレストというスタイルを使ってやってみたい」と言い出したのが、仲間たちから「ヤナさん」と呼ばれる柳澤大輔であった。

「楽しい人と面白いことをする」を徹底追求するカヤックは、ユニークなウェブサービスを提供する集団として、すでに国内外の賞を数多く受けていた。地域を盛り上げるための最適解として、彼はカヤックでの経験を思いつく。

「1998年の創業から振り返ったとき、カヤックとして絶対に続けなければならないのは何かと自問したら、それはやはりブレストでした」と言う。日常的にブレストを行う場を設けているだけでなく、「年に2回、全社員で『ぜんいん社長合宿』という研修を行っていて、そこでもグループに分かれて6時間以上ブレストをやっています。みんなが社長になったつもりで、アイデアを出す。結局、楽しく働くには、会社のことを自分事化できるブレストという手法しかないのです」

カヤックに根づいたブレスト文化のルールはこうだ。
 
1. 他人のアイデアに乗っかる

連想ゲームのように、人のアイデアにひらめきをかぶせていくので、意外とアイデアがぽんぽんと出やすくなる。柳澤は「人の話をしっかり聞いていないと、アイデアは出ません。お互い真剣に聞くから、チームワークが非常に良くなり、仲良くなれる」と言う。

2. アイデアは質より量

「ブレスト終了時に、アイデアがたくさん出ていたら成功です。質は問いません。持論を述べたり、人のアイデアを否定したりしていたら、数が出ない。これがブレスト体質への体質改善となります」
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文=藤吉雅春 写真=宇佐美雅浩

この記事は 「Forbes JAPAN No.35 2017年6月号(2017/04/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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