両社はともに、長年にわたってファッションに関する明確なビジョンを持ったリーダーに率いられてきた。トップはいずれも米国の消費者、特に経済的に余裕のある消費者が好む衣類を市場に送り出すことにおいて、素晴らしい才能を持っていた。
店舗に並ぶ象徴的な「プレッピー」スタイル(名門私立校風)のアイテムはシーズンごと、年ごとに、同じラインに少しずつ手が加えられ、発売されてきたものだった。そして、両社はともに、消費者の財布のひもがどこまで緩むのかを試すように、価格を引き上げ続けた。
成功は新たな成功を呼び込み、2社はそろって「自分たちのファッションの世界」をより幅広い市場に届けようと、店舗網を拡大。さらに、従来の顧客よりも所得水準が低い消費者層にも自社のファッションを求める人たちはいると判断し、価格水準を下げた別ラインを展開した。また、誰にでも手が届くような価格で販売するファクトリー・アウトレット店も設けた。
大不況が世界経済を襲ったのは、その後だった。それ以前の景気後退期は何とか乗り越えてきた両社だったが、最後は同じようにはいかなかった。消費者たちはまるで、一夜にして姿を消してしまったようだった。ミッキー・ドレクスラー(J.クルーCEO兼会長)とラルフ・ローレン(ラルフローレン創業者)がそれまで発揮してきた「素晴らしい才能」は、失われてしまったのだ。
そして両社は今、別の分野で大きな成功を収めたより若い経営トップを招き、今後の事業運営を任せようとしている。
成功のカギは「畑違いであること」
ラルフローレンのCEOに着任するパトリス・ルーベと同様、J.クルーの新CEOとなるジェームズ・ブレットも、現職はファッション業界と関わりがない。過去にファッション業界で働いた経験はあるものの、経営者として大きな成功を収めたのは、高級キッチン用品のウィリアムズ・ソノマ(Williams-Sonoma)の子会社である家具メーカー、ウエスト・エルム(West Elm)でのことだ。