日本では「アメリカのブルーカラー」とひとくくりに報じられるが、実は人種によって細かい違いがあるのだ。この手のディテールは、やはり永く現地で暮らす人に訊いてみないとわからない。小林さんによると、いまやヒスパニック系の労働力なしではアメリカ社会が成り立たないほどだという。その一方で、白人ブルーカラーの望むような仕事はない。
実はこれは日本の未来でもある。
昨年末時点での在留外国人の数は、238万を超え過去最高を記録した。内訳をみると、ベトナム人(36.1%増)やネパール人(23.2%増)の増加が著しい。
彼らの多くが「実習生」や「留学生」といった身分を偽り、体力が必要で賃金の安い単純労働に従事させられている現実はあまり知られていない。人手不足の現場で、日本人が嫌がるような仕事を外国人労働者が肩代わりするという状況がすでに生まれているのだ。
その一方で、日本人が望み通りの仕事に就けているかといえば、そうではない。この20年の間に非正規雇用は2千万人を超えた。本書で小林さんが描くアメリカ社会は、私たちがやがて確実に遭遇する未来でもあるのだ。
19世紀フランスの政治思想家、アレクシ・ド・トクヴィルは、新興の民主主義国家だったアメリカを旅して『アメリカのデモクラシー』を著した。この中でトクヴィルは、アメリカのスモールタウンにみられるような住民自治の習慣こそが、自由な社会の素地になっていると指摘した。トクヴィルが述べたような「古き良きアメリカの伝統」と、トランプを熱烈に支持するラストベルトのブルーカラーたちを、どう結びつければいいのだろうか?
「トランプ支持者たちが理想とするような、『大草原の小さな家』で描かれたような古き良きアメリカ社会は、ノスタルジーの中にしかありません。つまりは幻想です。でも、実体のないイメージだからこそ厄介だとも言えるわけです」
イメージが社会を分断する。同じようなことは日本でも起きている。
メディアに取り上げられた貧困家庭の子どもに対して、「貧乏なくせにコンサートに行って楽しんでいるのはおかしい」などといったバッシングが起きたりするのはその一例だろう。
個人のスキルやノウハウといった能力があっという間に陳腐化し、AIなどによって容易に代替されてしまう社会。個人が入れ替え可能な部品のごとき存在になっていく一方で、グーグルのような「一人勝ち」の企業は、有望なベンチャーを買収して次々に傘下におさめ、巨大化していく。
「情報」という人類が新たに手にした生産財も、こうした企業に独占されている。彼らがそれをいつ、どのように収集し、そしてどう利用しているかは、決して我々にはわからない。それにしてもこの「超一極集中」ぶりは、もはや「暴走」といってもいいのでは?
「新しいルールが必要だと思いますね。でも残念ながら社会全体でそうした議論は起きていない。仕事仲間や友人たちとのプライベートな会話で、『このままではマズいよね』といったことはよく話題にのぼるけれど……。結局、問題の根っこは“Too Big To Manage”なんですよ」
わずか0.1%の支配層に富が集中していく。その富のもととなるのが、残りの99.9%の人々(我々のことだ)が差し出す労働力や個人情報だと思うと、最悪な気分になる。だが、これが現実なのだ。
小林さんは本書で、私たちがこれからの社会をどうサバイブしていけばいいのかということにも触れている。とてつもないスピードで技術が進化している社会では、今日身につけたことが明日には古びてしまう。ならばもっと根本から私たちを支えてくれるものは何だろうか。