佐宗:私はこれまで複数の企業と携わり、協業をし、素早くプロトタイプを作って、失敗する──という文化を導入してきました。しかし、理解を得るのはとても大変でした。特に、これまで体験したことがない人たちにとって、慣れ親しんだプロセスとは全く別物です。マリオさんはどのように行っているのでしょうか。
マリオ:私が社内チームや顧客と働くときには、最初にマインドセットから触れています。それが「ignite」が考える、仕事の仕方にとって必要なものだからです。それが本来的なヒトの仕事の仕方とも言えるため、とても参考になるようです。ですので、プロトタイピングや実験に関するマインドセットを共有するのはとても大切だと思います。
何かを作って、そこから学ぶ──。これらは結局、「学びのマインドセット」につながります。プロトタイプを作るにしても、必ずそこには「何を知りたくて作るのか」という鍵となる“問い”があります。これはまさに、グロース(成長)・マインドセットです。
この反対にあるのが、フィックスド・マインドセット。正解か、不正解か、または失敗することを不安に思うことです。前者を持っていれば、チームは学ぶためにプロトタイピングや実験などを行い、そこから学んで成長しようという環境が生まれます。
佐宗:この文脈でグロース・マインドセットが出るとは面白いですね。「学びの文化vsダウンローディングの文化」「フィックスド・マインドセットvsグロース・マインドセット」というのは、個人としても本当に大きな変化です。組織となればなおさらでしょう。グロース・マインドセットを理解してもらうためには、どのような体験が必要でしょうか。
マリオ:まずはプロトタイプ作りを体感してもらうことだと思います。一度、抽象化したモノを実際に作ってみる、という経験は“筋肉”になります。プロトタイピングをすればするほど、自信に繋がる。何のためのプロトタイプか、何を学びたいのかを考え、プロトタイピングに長けてきたら、あらゆる角度からクリティカル・シンキングができるようになります。こうしてマインドセットが変わっていきます。
佐宗:同プログラムではあらゆる企業、そして日本の企業とも仕事をされていますね。日米両者で文化の違いや反応の違いはありますか。
マリオ:日米の顧客の最も大きな違いは、行動を起こすきっかけ、イノベーションを継続する土壌という2点が大きいのではないかと思います。
行動のきっかけとは、「自信を持って質問をできるかどうか」ですね。アメリカでは、「なぜ?」と聞いたり、クリティカルに考えたり、曖昧さを抱えた体験をすることが、教育システム上許されるようにトレーニングを受けています。一方、日本では質問はあるのだろうけれど、グループという環境では出てこない。
これはグロース・マインドセットに起因すると思います。質問をして間違えた方が、間違った質問をしているかと考えたり、何も知らないのかもと考えたりするより良い。
また、アメリカは成熟したスタートアップ文化があり、生き抜くためにアジャイルになるテック企業が数多く存在します。こうした動きがビジネスや業界を破壊している。日本でも、スタートアップ文化が成熟すれば、大企業は危機感をもって次の段階へと進むでしょう。