日置:企業が学ぶべき対象として、欧州企業を選択したのには2つの理由があります。まず、入山さんが指摘された通り、米・欧・日で比較した時の、欧州企業と日本企業の親和性です。
入山:日欧と米の差が明確なのは雇用体制。必要な人材の外部調達が一般化している米国企業に比べ、欧州企業は労働法、労働組合などの影響で勤続年数の長い従業員も多く、従業員を「家族」のようにとらえる傾向があります。
日置:日本では終身雇用による人材の「固定化」が企業変革の制約となることも多い。しかし、日本的な雇用体制を持つ欧州企業でも、変革に挑み成功している企業がある。欧州企業の経営を分析すれば、日本企業が学べることも多いでしょう。
入山:米国では投資家の立場が強く、企業でも「会社は株主のもの」という志向が強い一方、欧州企業は従業員を“家族”のように考え、企業が投資家だけのものという感覚が弱いことも多い。また、ESG(環境・社会・ガバナンス)の発祥地でもある欧州の社会への利益を重視する姿勢は、「企業は社会の公器である」という松下幸之助の言葉に象徴される日本の企業観と近いともいえます。
日置:経営環境の共通項が多いことから、欧州経営は日本企業にとって、比較的取り入れやすいという仮説を立てることができるわけです。
入山:欧州経営に学ぶべき2つ目の理由は、欧州企業が先進的なグローバル企業にシフトしたプロセスが、日本企業にとって良い対比モデルとなると、日置さんと私が考えたからです。バートレット&ゴシャールの有名な「I-Rフレームワーク」では、グローバル統合とローカル適応の2軸で、企業を「グローバル型」「インターナショナル型」「マルチナショナル型」「トランスナショナル型」の4つに分類します(図)。
多くの日本企業、特に製造業では資産や能力を本国に集中させ、その成果を世界規模で活用し、海外子会社には本社の戦略を忠実に実行させる「グローバル型」がとられてきた。一方で、多くの欧州企業はローカルに大胆に権限委譲する「マルチナショナル型」をとってきた。自国の市場規模が巨大である米国企業は「インターナショナル型」のマネジメントを実施する傾向にあったと言われています。現在、欧米の優良グローバル企業は、グローバルとローカルの経営的利点を最大化できる「トランスナショナル型」へとシフトを進めています。