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2017.03.01

資源量3倍、漁師の収入2倍 米国水産業を変えた画期的プログラム

日本、中国、フィリピンを含む”獲り過ぎ”という共通のモメンタムも抱えたキーとなる国々が、最新の科学的知見に基づいた漁業権の制度設計を取り入れることにより、海の生物の保護と同時に、漁業者の生活を守ることもできる。


現在、すでに米国領海における漁獲量の約7割がこの制度下にあるという。
 
EDFは非営利組織でありながら、科学的根拠や、経済性に基づき環境ビジネスの結果を求めていくのが特徴だ。科学者、経済学者、政策立案の専門家を含む約550名のスタッフで構成されている。政府系基金からの出資はほとんど受けず、主に民間の基金やメンバーシップによる出資で運営費用が賄われている。

そのボードメンバーには著名投資家として知られるタイガー・マネジメント創設者のジュリアン・ロバートソンなども名を連ねている。

「私たちは自分たちの主張を声高に押し付けたりはしません。自由市場に合わせ、あくまで実践的に結果を求めていくので、保守、リベラルなど政治信条を問わず幅広い層からの賛同を得ています」(同前)

その彼らが現在、アジアでの漁業資源問題にも強い関心を抱いている。
 
実は、日本での取り組みはすでに始まっている。東北の漁師たちと共同で、冷凍技術を用いた冬場までのスズキの保存を試験的に行っているという。夏場に収穫したものを旬に売るよりも、冬場に売ったほうが高値になる。さらに、産卵期である冬場の漁獲を低減することで、資源保護にもつながる。
 
これが実際にどれくらいの収益性を生むのかという検証実験だ。
 
フレッド自身、11月初旬に来日し、漁協関係者や水産系の研究者、大学、関係官庁などを訪ねヒアリングを行った。

「日本国内で消費されている水産資源の55%は、日本の沖合から漁船団が獲ってきます。オホーツク海や日本海、東・南シナ海、西太平洋など、その漁業範囲は亜熱帯から亜寒帯にまで及んでいます。
 
これらは中国、ロシア、韓国、台湾、フィリピンなど、地域の他の主要漁業国にとっても、同様に貴重な資源です。
 
各国が、最新の科学的な知見に基づいた漁業権の制度設計により利益が出ることを知ってくれれば、すべての海の生物の保護と同時に、世界中の漁業に関係する何億人もの人々が貧困から抜け出すのも夢ではありません」


フレッド・クラップ◎1954年生まれ。コネチカット州在住。市場の力を環境保護に役立てる試みの第一人者。これまでデュポンやフェデックス、GEなどといった企業にアドバイスをしている。

文=皆川尚慶

この記事は 「Forbes JAPAN No.31 2017年2月号(2016/12/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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