しかし、それでもスーチー氏のカリスマは健在であり、「スーチー政権」に対する国民の支持に揺るぎはないとみられる。筆者は、総選挙の時期から、数多くのミャンマー人の意見を聞いているが、一年で大きな変化を望むべきではない、引き続きスーチー氏のリーダーシップに期待する、という声が大半であった。
政治、社会面での不安定に比べれば、ミャンマーの経済は比較的安定して発展しているといえる。IMFと世銀は、洪水被害の影響や中国への輸出減などにより、16年度の経済成長率を6.5%に下方修正したが、17年度以降の成長率は7%を超える水準を持続するとみている。
外国投資は、政権発足当初、認可に遅れが生じたこともあり、前年度よりも減少しているが、日本の官民が開発を主導するティラワ工業団地への外国企業の進出は続いている。2月には拡張工事が始まった。昨年は新投資法の制定、米国の制裁解除が実現。今年は会社法の改正により外資規制が緩和される予定であり、さらなる外資の誘致に向けて投資環境の改善がはかられている。本年から政府は、中古車の輸入規制を導入したが、これは、国内での新車生産を推進する経済政策の一環とみられる。
仏教徒によるイスラム教徒への差別について政府が対応する動きもみられる。例えばヤンゴン管区のピョー・ミン・テイン首相は、イスラム教徒排斥を主張する急進派仏教団体に対して解散を促した。
なお、ピョー・ミン・テイン氏は、ヤンゴン市内のバス路線の改革を断行し、ヤンゴンから旧式の中古バスを一掃するなど、剛腕ともいわれる実行力により存在感を高めている。ピョー・ミン・テイン氏は元民主化運動の闘士で、15年間の投獄経験を経て、民政移管後に下院議員に当選した人物。スーチー氏の信頼も厚く、有力な後継者候補といわれる。次世代のリーダーも育ちつつある。
「アウンサン・スーチー政権」の一年が順風満帆であったとはいいがたい。課題は山積し、政権は試練に立たされている。しかし、重要なのは、正しい方向に向かっている、という感覚を国民が共有していることだろう。その評価の一端は、4月の選挙で明らかになる。