この発表を受け、インド中がパニックに陥り、銀行とATMには長い列ができた。
ミシガン大学教授のユエン・ユエン・アンは「国民は全く寝耳に水だったようだ。今回の一件はとてつもなく大掛かりかつ極端だ」と述べた。
インド財務省は500ルピー札と1,000ルピー札が金融犯罪や違法な薬物売買、ブラックマーケットの資金に使われていると述べている。インドでは贈賄は日常茶飯事で、抜本的な対策が待ち望まれていた。
「直近の世界腐敗バロメーターで中国とインドを比較すると、前年に賄賂を渡した人の割合は中国が9%だったのに対しインドは54%だった。中国の腐敗は政治のエリートに集中しているが、インドでは警察官が一般市民をゆするような小さな腐敗が広く浸透し、経済に悪影響を及ぼしている」(アン)
政府は通貨の大部分を無効化することで、これらの社会的、経済的病巣を取り除こうとしている。欧州中央銀行もかつて、不正使用対策として500ユーロ札を廃止した。しかしインドの経済や社会の現状はEUとは大きく違う。また、国民の現金貯蓄を一気に無効化することがもたらす痛みは相当なものだ。
ニューデリー在住の作家、モニシャンカー・プラサドは「今回の措置の社会的インパクトは、国民にとって地球が砕けるレベルだ」と語った。
デジタル決済普及への強攻策?
500ルピー札と1,000ルピー札は給料の支払いや不動産取引など、民衆経済に深く根付いている。銀行には新札への交換を求める人が列を作ったが、1日に交換できるのは約65ドル分まで。交換する際には新しい2,000ルピー(約30ドル)札を受け取ることが多いが、それで買い物をすると、今度はおつりをもらうことが非常に難しくなる。
街の商店は店頭に並べる商品を買えず、品切れも起きている。タクシーやリキシャのドライバー、床屋といったあらゆる職業の人が不便を強いられている。インド経済は現金中心の世界だ。銀行口座を持っているインド人は全体の60%しかいない。政府は今回の措置を契機に、より多くの人がデビットカードや電子決済を用いるようになり、税収が増えることを期待している。
「この動きはキャッシュレス経済に向かう創造的破壊とも見られる。1991年のインド経済自由化以来、最大の政策転換と言える」とプラサドは述べた。