ミャンマーが国民融和を実現する上で避けて通れない重要課題は、少数民族武装勢力との和平である。NLD政権は、選挙戦中の公約として少数民族武装勢力との和平を第一に掲げており、政権が発足した後もスーチー氏が主導して和平交渉を進めてきた。
ミャンマーには約20の少数民族武装組織が存在し、前政権はそのうち8の武装組織との間で停戦協定に署名したが、新政権はすべての武装組織との和平の追求を宣言。昨年8月には17の武装組織の参加を得て「21世紀版パンロン会議」という和平会議を開催した。しかし、カチン州とシャン州では戦闘が継続しており、これらの地域で政府と衝突している有力な武装組織は会議に参加しなかった。
少数民族和平の鍵を握るのは、一部の有力武装組織に対して強い影響力をもつ中国である。スーチー氏は昨年8月、パンロン会議の開催前に中国を訪問し、習近平国家主席や李克強首相と会談したが、そのタイミングに合わせて、シャン州の武装組織が突然に停戦を宣言、パンロン会議への参加を表明した。
中国の影響力をあらためて実感させる出来事であったが、ミャンマーが中国との関係にどのように対応すべきかは難問である。中国との経済関係を深めることで得られるものは大きいが、ミッソン・ダムのように環境破壊が懸念される中国資本のプロジェクトをめぐって住民の反中感情が高まっており、ヒスイや木材の不法輸出の問題、国軍や政商とのつながりもあり、過度な依存にはリスクも伴うからである。
新政権においてスーチー氏を含め文民が国軍の動きを制御できないことも、少数民族和平の進展を妨げる一つの要因となっているとみられる。ミン・アウン・フライン国軍司令官は昨年、中国や欧州を訪問し、習国家主席と会談するなど、独自の外交活動を展開、存在感を高めている。
「アウンサン・スーチー政権」の一年に対する評価
このように、「アウンサン・スーチー政権」は、現実主義の観点から、前政権からの遺産を受け継ぎつつ、おおむね安定した統治を実現したものの、国民融和が厳しい課題となっており、特に昨年後半からはイスラム教徒との関係が深刻化した。
政権移行当時の写真 (Photo by Lauren DeCicca/Getty Images)
一国の指導者となったスーチー氏は、法の支配の実現という自らの理想を追求しながら、同時に、ミャンマーという発展途上にある国家を安定させ、繁栄に導くことを求められている。イスラム教徒の問題への対応が不十分とも非難される理由はここにある。
ミャンマーでは、4月に補欠選挙が予定されている。改選議席数は19であり、選挙結果がどうであれNLDの議会における優位が揺らぐことはない。しかし、この選挙は、発足して一年を迎える「スーチー政権」に対する国民の評価を初めて示すものになる。
2015年11月の総選挙での圧勝から一年以上が経過し、すでに当時の熱気は過ぎ去っている。国民の期待は高いが、それだけに、十分なパフォーマンスを見せることができなければ失望に変わる。