「これからの企業経営にとって、CFO(最高財務責任者)とその組織は、“帳簿屋”ではなく、変革をリードしていく存在であるべきだ。日本企業の中でも、その取り組みや役割において特徴的な人や組織が出始めている」
日本CFO協会専務理事・谷口宏はそう話す。2015年の企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)導入や14年の日本版スチュワードシップ・コード策定により、ROE(自己資本利益率)を目標値にした“攻めの経営”による稼ぐ力の向上や株主との対話の充実が必要になり、CFOの役割は増している。
こうした中、ROEを経営目標に掲げる企業が増え、「ROE経営」が注目されている。同指標を意識して自社株買い、配当も増えている。実際に、自社株買い実施企業は前年度で635社と前年度より3割増加。
その一方で、15年度の東証1部企業のROEは平均7.3%と、14年度7.4%を下回るという結果もある。
「ROEの改善が数値だけという企業もある。“質”が伴っていなければ持続的成長につながらない」(谷口)。
「阿吽の仕組み」を構築できるか
「グローバル競争の中、日本企業は収益性、成長性において、グローバル企業と大きな開きがある。その差を埋めるために、M&A(合併・買収)や新事業といった足し算をするには、自社の将来像に位置づけられない事業や有効活用できなくなった資産を整理する必要がある。そのためには、低収益の事業を引き算し、将来を見据えてリソースをシフトしていく─。こうした引き算の決断を実行に移す、先導するCEOとそのパートナーであるCFOのリーダーシップが欠かせない」(デロイト トーマツコンサルティング パートナー、日本CFO協会主任研究委員・日置圭介)。
従来、日本企業は事業展開するCEOを事後フォローする帳簿屋のCFOという関係だった。しかし、市場がグローバル化し、事業の短サイクル化やビジネスリスクの複雑化が進む中で、企業の持続的成長のためには、限られたリソースを新規事業や新市場創出に投入するともに、将来性が見込めない場合は売却や撤退の早期の判断が必要になるなど環境前提が変化した。
CFOはいまや、市場・事業に対する客観的分析を行い、企業価値の最大化に向けた青写真を描き、高位安定的な収益構造を作る経営資源配分に関する提言など、企業の経営戦略を財務面から見極め、リードする役割が求められている。
「R&D(研究開発)やM&Aなどの将来を決める投資、言い換えればリスクを伴う意思決定におけるファイナンスの重要性は高まっている。また、ハードからソフトでの勝負が本格化する中、ビジネスの作り方やキャッシュの出入りも変わっており、この点への貢献期待も高い」(日置)。
この変わりゆく役割を十分に果たしている日本企業のCFOは、残念ながら少数にとどまるという。