ビジネス

2016.11.15

イノベーションに欠かせない「センスメイキング」とは

早稲田大学大学院経営管理研究科准教授・入山章栄 (photograph by Ramin Rahimian)


イノベーションは、常に「既存知と既存知の組み合わせ」から生まれます。そのため、企業は常に「知の範囲」を広げることが望まれます。一方で、人間は認知に限界があり、結果として目の前のことだけを組み合わせがちです。したがって、やがて組み合わせが枯渇してくるのです。そこで重要になるのが経営学で「Exploration」と呼ばれる、「知の探索」を意図的に行うことです。

GEやIBM、デュポンのような欧米の歴史あるグローバル企業では、経営者がセンスメイキングに注力できている、というのが私の印象です。その背景にはこれらの企業では「知の探索」が仕組み化されていて、経営者の役割がビジョンを部下や経営幹部に語って足並みを揃える(センスメイキングする)役割に集中できるからです。

例えばデュポンは100年先の未来について考える委員会を経営層がつくり、長期ビジョンで社会をとらえる仕組みをつくっています。経営者はそこから出てきたビジョンを部下や従業員に語っていくのです。

他方、日本の大企業の多くは、そもそも長期ビジョンを描くのが得意ではありません。3年2期程度の短いスパンでトップが変わる典型的な日本の大企業が描くことができるのは、せいぜい3年単位の中期経営計画です。結果として知の探索が行われず、センスメイキングも進まず、イノベーションが停滞してしまうのです。

もちろん、日本のスタートアップや同族企業のなかには知の探索を行って、センスメイキングをする経営者もいるのですが、こういった企業の多くは、ビジョンが「属人的」です。すなわち創業者・経営者の頭のなかで事業構想が完結しており、組織に仕組みとして落とし込めていないのです。

一人で知の探索をしながら、同時にビジョンを描き、現場で従業員に語りかけてセンスメイキングを行い、さらにマイクロマネジメントまでするような超人的な経営者がいてはじめてイノベーションがうまくいく、という構造なのです。

このように、これからの日本の大企業の課題は、知の探索やビジョン策定などの施策を仕組み化させながら、経営者はそれを魅力的に語り、周囲の従業員やステークホルダーに納得してもらい足並みを揃えて前進させるセンスメイキングに注力する、というバランスでしょう。

しかし、3年2期で定期的にトップが変わるような組織では、それが難しいのも事実です。GEは138年の歴史でCEOは9人しかいません。経営者が長期にコミットできるからこそ、知の探索とセンスメイキングが進むのです。このような企業と経営者の輩出が、日本からも期待されるところです。

いりやま・あきえ◎1996年慶應義塾大学、98年、同大学大学院修士課程修了。三菱総合研究所を経て米ピッツバーグ大学経営大学院博士課程に進学し、2008年に同大学院より博士号を取得。13年より現職。

肥田美佐子、フォーブスジャパン編集部=文

この記事は 「Forbes JAPAN No.28 2016年11月号(2016/09/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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