「イーロン・マスクとは仲がいいので、よく会いますが、彼なんか『アントレプレナーは国家に立ち向かえ』と言う。従来の枠組みで考えるのではなく、"こうなる"と仮説を立て、そこに向かって進んでいく。起業家のパワーは先を読む力と挑戦する力にある」
「そういう意味では、楽天は自分たちの仮説の中で、グーグルやテスラとは異なる、独自のイノベーションを次々と起こしてきた。これからはインターネット・サービスに限らず、自分たちのイノベーティビティをもっと広げていこうと」
2017年に創業20周年を迎える楽天が、ミッションステートメントをこのほど変更した。「イノベーションを通じて、人々と社会を”エンパワーメント”する」。創業以来掲げてきた「インターネット・サービス」から「イノベーション」への改訂は、経営者にとって重大な意思決定だったに違いない─。そう考える周囲をよそに、楽天創業者で会長兼社長の三木谷浩史は冒頭のように自然体だ。
三木谷がつくりあげた「楽天経済圏」拡大の足跡を振り返ると、米国ビジネスモデルの後追いでないがゆえの、さまざま"世界初"がある。「ネットで人はモノを買わない」と言われた時代にB2B2C型ビジネスモデルを立ち上げ、ネット上でのポイントプログラムを本格導入、フルラインのネット金融とeコマースを結びつけるなど、オリジナリティあるインターネット・サービスを構築してきた。そして、グローバルでも様々なビジネスを展開中だ。15年度の流通総額は9.1兆円(前年同期比22.8%増)にも及ぶ。
また、直近では、無料メッセージアプリ「Viber(バイバー)」(14年、約9億ドル)、ネット通販関連サービス「Ebates(イーベイツ)」(14年、約10億ドル)、データ解析の「Slice Technologies(スライステクノロジーズ)」をはじめ、海外有力ベンチャーを相次いで買収。さらに、15年に新設した楽天技術研究所ボストン拠点は深層学習(ディープラーニング)を含めた人工知能(AI)分野専門だ。
これからのデータ時代を見据え、一日何十億データポイントという収集能力を生かし、次の成長へ向けて、舵を切っている。「アクセル、ブレーキで考えると、日本人はブレーキが強すぎ。僕はブレーキが壊れているのか、あるいはブレーキを踏むセンサーが人と違うのか」
そう笑いながら自らを表現する三木谷だが、起業家がイノベーティブであることと、企業がそうであることは異なる。それに対する三木谷の答えは「ビジョンを示し、イノベーティブであり続けることを経営陣が示し続ける」。すでに中期戦略「Vison2020」に落とし込まれているという。