ー売上高構成比を見ると、国内が15.7%、海外が84.3%。社長就任直前の海外売上比率は約45%。この急速なグローバル化が増収増益を支えているもう一つの要因だ。特筆すべきは、1995年にすでに中国に進出したことだ。
これもビジネスモデルの転換と同じ発想だ。成長しようと思ったら世界に出ていくしかない。1人1検体、つまり人口が我々のビジネスのポテンシャルになる。人口の減る日本に安住していては先細りすることは誰でもわかる。
ーそれにしても、当時の中国はまだ「世界の工場」にもなっていない。ましてマーケットとして可能性に着目した経営者は少ない。次々と先手を打てた理由は?
大きな潮目を読むことだ。社長に就任したときの目標は、グローバルでトップ10入りを果たすこと。そのためには当時300億円ほどの売り上げを倍の600億円近くに伸ばさなくてはならない。社員たちの中には「私たちを倍働かせるのですか?」と言う者もいたので、「あなた方はそのままやればいい。これは経営の仕事である」と答えた。
シスメックスという船をどの潮目に乗せるかを考えるのが私の仕事だ。社員がどんなに一所懸命船を漕いでも、経営者が下手な潮目に乗せたら逆走する。いい潮目なら普通に漕いでも大きく前進できる。
ミクロで見れば中国市場はリスクばかりに見えるかもしれないが、マクロで見れば大きな人口ポテンシャルを持ち、経済成長の過程にある。この潮目に乗せようと決めたら、あとはチャレンジだ。
ーシスメックスにとっての次の潮目は何か?
大きな潮目は、遺伝子解析技術の進化。それによって個別化医療の時代が来る。先手を打って00年に中央研究所を設立している。遺伝子検査や、リキッド・バイオプシー(血液や体液によるがんなどの疾病検査)の分野で個別化医療に貢献したい。
家次恒(いえつぐ・ひさし)◎1949年生まれ。73年京都大学経済学部卒業後、三和銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行。86年、東亞医用電子(現シスメックス)に入社、取締役に就任。90年常務取締役、96年専務取締役を経て、同年6月より現職。