なかなか、興味深いコメントなんですが、おそらく、この製薬企業がやっていたようなフィジビリティスタディと同様のことを、多くの日本企業はやってしまっているのではないでしょうか。
こういう状況に陥ってしまう背景には、企業の組織の特性の問題もあるかと思います。
結論から言ってしまうと、特に企業のトップがサラリーマン社長の場合、このような企業行動に陥ってしまう可能性が多い気がします。サラリーマン社長の場合は残念ながら、「自分のビジョンで、こう世界を変えたい」というモチベーションが相対的に低い傾向があるかもしれません。
恐らく、オーナー企業経営者、あるいはスタートアップ企業の経営者は、もっと真剣に部下に「この新規事業のフィジビリティスタディを検討してくれ」とお願いしているはずです。なぜなら、その新規事業に実際に取り組むかどうかが企業の今後を左右するし、トップのビジョンの実現に寄与するのかどうかを判断することも、とても重要だからです。
これらの特性から、オーナー企業あるいはスタートアップ企業は「トップダウン」型でこのような検討をするのです。
一方、トップがサラリーマン社長である場合の多くは「ボトムアップ」型の可能性が高く、新規ビジネスの提案も下から上がってくる場合が多いのではないでしょうか。この場合、トップの主な任務は、「拒否権」を発動するかどうか、になるようです。
となると、提案を上げる担当者も拒否されない提案をしようとするでしょう。
となると、逆三角形モデル、つまり、求められている回答を出すような思考モデルは、彼ら担当者にとってとても使い勝手の良いものとなります。日本の大企業では、この思考モデルをうまく使いこなせる人が出世しそうです。
日本経済の失われた20年の一つの遠因として、企業の多くの意思決定がこのような思考モデルに基づいた同調思考・行動様式にあるような気がしています。今日の連載のタイトルにつけてしまったように、この思考モデルは、「思考の共産主義」と呼んでいいかもしれません。何とか脱却したいものです。(第三回終わり)