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2016.10.27 08:00

日本の大企業に蔓延する、思考の共産主義[樋原伸彦のグローバル・インサイトvol.3]

Dragon Images / shutterstock.com

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前回の連載「シリコンバレーで言われたこと」に予想以上の反響がありました。特に、逆三角形型の思考の流れの話への共感を多くいただきました。皆さんも日々同様のことを様々な立場から感じられているようです。

そこで思い出したのが、ある高名な人文学系の先生が、日本人の特徴(欠点と言ってもいいのかもしれませんが)は二点あるとおっしゃっていたことです。

1. 最後まで考え抜かない。
2. 自分の言説・行動を周りがどう感じるか気にしすぎる(今流に言うと、空気を読む)。

この1と2の特徴は実は一緒に絡み合っているものと思います。というのは、「周りの人がどう考えるか」という基準に沿って、考え・行動しなくてはいけないインフォーマルな社会規範に従う場合、真実だと思うところまで考え抜こうとしても、それが周囲の賛同を得るのが現実的に難しいと感じてしまうと、途中で思考を止めてしまうことがあるからです。

周囲の理解を得るのに莫大なコストがかかる場合は、こういう行動選択も合理的と言えなくもないですが、真実を伝えて他者を最後まで説得する覚悟に欠けている、とも言えるかと思います。

または、2の規範をクリアすること自体が目的化してしまう可能性もあります。つまり、周りの反応がいい言説・行動を見つけてしまうと、まだまだ考え抜かないと真実かどうかはわからないのに思考を停止してしまう動機が発生します。あるいは、周りの人が考えていることをゴールとして、そのストーリーを正当化するための材料ばかり集めるような思考に陥ってしまうこともあるでしょう。

このように、規範を守ること(=2)が必要条件になると、最後まで考え抜く(=1)ことをやめる動機付けが高まりそうです。

また1と2の特徴は、前回説明した逆三角形型(下図)の下方へ向かう思考の流れのモデルとも相性は良さそうです。つまり、いったん、こういう方向で行くのがいいのではという空気ができ上がり、その思考が官から下方に拡散していくと、アカデミアも民間企業も、その空気の枠からはみ出さないように活動していくことが最適な行動と考える傾向が出てきてしまいそうだということ。これは結構深刻かもしれません。
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例えば、最近まで製薬企業で働いていた方の話だと、「何か新しいビジネスを始めようとし、フィジビリティスタディ(実行可能性調査)をするよう上司から言われたとします。すると担当者は、既に官が提供しているデータを使って、また、官の基本ストーリーに沿ったスタディ結果を出してくることが多い。さらにおもしろいことに、他社も、官から提供する同じデータを使って検討している場合が多いため、結局、業界各社が考えつく戦略はほとんど同じものになってしまう」ということがあるようです。。

彼はこうも付け加えました。「担当者としては、とても楽ですね。データなどの材料も与えられているし、予定調和的な結論もほぼ見えているわけで、そのストーリーに沿った検討結果を出せばいいわけですから。上司もそういう結果を好みます」
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文=樋原伸彦

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