オープン・イノベーションとは、例えばもともと持っていた技術とは異なる方向、あるいは大きく飛躍した分野への発展を望む企業が、成熟した既存企業とのM&Aにより、他力の経営資源を組み合わせる形でイノベーションを起こす手法だ。畑違いの医薬産業に進出した富士フイルムなどが記憶に新しい。
また最近では、自社の技術のリニア(直線的)な発展ではない、業種間のクロスオーバーが顕著に増えている。自動運転技術の開発に、IT企業であるグーグルなどが参入しているのがいい例だ。
さらにM&A自体も、従来の1対1ではなく、1対10あるいは1対100といった形に変化している。企業がコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)という形で投資会社を持ち、将来性を認めた複数の企業に投資し始めているのだ。
一般に、「M&Aは時間を買う」と言われることから、リニアなイノベーションに有効である。それに対して、CVCは、より多くのさまざまな業種のベンチャー企業に投資することから、ディスラプティブで非連続なイノベーションが期待できる。
企業が、常識を覆すような技術や、破壊的なイノベーションを求めるようになる中で、こうした手法が注目され始めている。
定型作業から解放される時代が到来
「10年後になくなる仕事」。ここ数年、さまざまなメディアを賑わせてきたテーマだ。思わず“消える職業”リストを見入ってしまった人も多いのではないだろうか。
ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)、デジタルレイバー、人工知能(AI)─。これまで人が行ってきた業務を自動化可能なテクノロジーが今、注目されている。ブルーカラーのみならず、ホワイトカラーの業務の一部も、すでにAI/RPAが担えるようになってきた。
「『10年後になくなる仕事』の背景にあるのがRPAやデジタルレイバーです」と話すKPMGコンサルティングのディレクター、田邊智康は今、さまざまな企業に対してその活用を勧めている。
AI/RPAは、エネルギー、銀行、保険、証券、不動産取引、製造業、一部サービス業、製薬・医療機器など幅広い業種ですでに導入が始まっている。規則性があり、ルールがはっきりした作業であれば、かなりの精度で導入することができるという。一方、例外が多い作業や人の判断が伴う業務は、AIやコグニティブ(認知技術)を活用し、蓄積したデータを分析することにより、ある程度の業務を自動化するという動きはある。
余剰労働力を抱える欧米では、RPA導入の投資対効果が重視される傾向が強く、代わりに労働力の効率化が行われる例が多い。しかし、日本では事情が異なる。労働力不足に悩む日本企業は、投資対効果も大事だが、業務量の削減や働き方の改革にも関心を寄せている。
労働人口の減少に向かう日本では、貴重な熟練労働力が、子育てや介護のために離職することは、労働者自身のみならず企業にとっても大きな痛手。そこで、AI/RPAに人間の労働を肩代わりさせて実質労働時間を減らし、優秀な人材にライフステージに関係なく働いてもらえる環境作りを望む企業も出てきた。田邊は指摘する。
「AI/RPAの導入は、仕事の絶対量を減らし、働き方の根本的改善になるものでなければならないのです」
PCやインターネットの普及によって仕事がロケーションフリーになった。だが、家にいても仕事ができるようになったことで、かえって労働時間が増えたとの声は多い。今度こそ、働き方が改善されるはず─ AI/RPAが今、企業の期待を集めている。