––「日本企業はイノベーティブな経営が得意ではない」と言われます。
森:エスタブリッシュな企業と、新しくビジネスを生み出していくベンチャー企業を、同じ次元で語ることはできません。前者の場合、既存のビジネスとのバランスを取りながら新分野にシフトしていく必要があり、新しく会社を作る以上にチャレンジする部分が大きいからです。日本企業は、従業員や地域経済を守るという観点をなかなか外すことができません。しかし、そこを守ろうとするあまり、イノベーションを起こせずに衰退し、かえって従業員を傷つけることもあります。
––イノベーションを実現するうえで、最も重要なことは何でしょうか。
森:意思決定の速さが大切です。たとえば「新規事業に移っていく時に既存事業をどうすべきか」という課題に対する解の1つとして、その事業をうまく活用できる会社に譲渡する方法もあります。資本を変えて素早く社内から切り離すことによって、結果として雇用は守られる。その判断が遅れると、変革のチャンスを失ってしまいます。
ただし、いくらスピードがあっても、過去からの積み上げ式の思考では、既存ビジネスの枠から抜け出せません。そこから一歩踏み出すには、新しい事業を作り出していく「創造力」はもちろん、経験したことのない未来の姿を見据えて、そこから引き戻してビジネスを考えられる「想像力」も不可欠です。実は、この2つの力を駆使して初めてイノベーティブな企業経営が成り立つのです。
––リーダーシップを発揮できる“イノベーティブなCEO”には、どんな特徴があるのでしょうか。
森:一見、相反するのですが、「執着心」と「柔軟性」の両方を持ち合わせています。新規事業は容易に成し遂げられないため、CEOとして一定のコミットメントをし続け、経営資源を投入し、自らの想いを注ぎ込んでいく必要があります。そのために「執着心」は欠かせません。
一方、全体を俯瞰できるポジションに立ち、停滞した部分を変えていける「柔軟性」も必要でしょう。社内のリソースを使うべきか、М&Aを利用するか、その領域に高い知見を持った外部リソースとアライアンスを組むか─。「エコシステム」を視野に入れながら、最適解を判断できることです。