高濱:これまでたくさんの子供や保護者と接してきた経験から、ひとつ言えるのは「お母さんが幸せであること」が最も重要だということです。「お母さんがニコニコしていること」が大切なんです。
私はよく「30〜40年教えていて、子供たちは変わりましたか」という質問を受けるのですが、全然変わらないんですよ。大きく変わったのは社会的な圧力です。その負担を圧倒的に受けているのがお母さんなんです。
これは僕の持論なんですが、人間は哺乳類。つまり、お母さんが重要なんです。だから、そのお母さんが「安心している」ことが大切であるのに、安心できていない。これは時代的病と言ってもいいでしょう。
昔は地域で子供を育てていた。しかし、ここ数十年の間にその地域が壊れ、今は育児や家事がすべてお母さんの肩にのしかかっている。ここに大きな問題があります。
谷本:ただ、昔のような地域を取り戻すことは、そんなに簡単ではありません。
高濱:そうです。だから、一番のカギはお母さんを立ち直させること。お母さんたちをピカピカにすることにみんなが力を注ぐことです。そのためには、まず“家の外”にお母さんの居場所を作る。例えば、働くことです。お金のためではなく、精神安定剤として仕事をする。たとえ20万円の給料の15万円が保育料に消えたって、そちらの方がいいんです。
谷本:夫など家族が支えるというのは効果がありますか?
高濱:夫だけでは厳しいと思います。やはり、色んな人が周りにいて「網の目」になってあげないと。例えば、よくバーベキューを一緒にする家族同士で擬似家族になるということでも、精神衛生的にはだいぶ違います。会社ではスーパー総合職で部下をまとめているような女性でも、子育てになると解がなく、一気に不安になってしまう。それを何の根拠がなくても「大丈夫だよ」と言ってくれる人が周りに一人でもいるかどうか、これが重要なんです。
谷本:お母さん自身が気をつけることはありますか?
高濱:子供がやっていることを邪魔しない。口出ししないことです。ほっとけばいいんです。今の子供たちは「やらされ人間」が多すぎる。これは、これからの時代に成功する人間の反対にある。ほっとけば勝手に遊ぶし、その中でリーダーシップが育つのです。
これから30年後、世界はどう変わっているかはわからない。けれど、人と人が出会って素敵だな、魅力的だな、という人間はいつの時代も強い。それには、圧倒的な経験量をつけさせる。そうすれば、いい子に育ちますから。