─女性が管理職になりたがらない、という声については。
それも言い訳だ。これまで僕がオファーして断った人はー人もいない。見合った昇給を提示しているから。しかし、男性と女性ではちょっとした違いがある。女性はよりプラグマティック。男性は昇進するけれど給料が下がる、という状況でも喜んでやるが、女性はレスポンシビリティとコンペンセーションのバランスが合わなければやらない。
現状では、家事・育児に関して女性がハンディを背負っているのは事実。それに対処するのは、マネジメント側の責任だと思っている。
─事業部長となった女性に「4時に帰れ」と指示したと聞いたが。
会社にベンチマーキングを作れば、変わる。現在執行役員で、中日本事業本部のトップは福山知子という女性。スナック事業でカルビーに次ぐ2番手は湖池屋だが、中日本事業本部の売り上げは湖池屋の1.3倍はある。従業員が約900人、工場が3つ、売り上げは400億円以上。3年前、そのトップに当時小学4年生と1年生の子供がいる福山がなった。
そこで、私は彼女に言った。「私はあなたに命令する。この命令が聞けないなら、会社をやめるか、職を辞退するかどちらか。何でもいいから4時に帰りなさい」。彼女は今、その命令を忠実に守っているが、何の問題も起きていない。
ダイバーシティは、並行して働き方改革を進めなければならない。働き方改革で最初に言ったのは「とにかく早く帰れ」。福山には「4時に帰れ」。しばらくしてから「2時に帰れ」。さすがに2時に帰る社員はいないが、「終わったら帰れ」。今は「会社なんか来るな」と言っている。昔ならともかく、今はツールが揃っているので仕事は毎日オフィスに来る必要はない。
─なぜ他の企業ができていない改革が成功していると思うか。
「コミットメント・アンド・アカウンタビリティ」。ビジネスの世界は政治と違う。コミットしたら必ず結果を出さなければならない。経営哲学でも何でもなく、基本的なこと。稼がないと設備投資はできない、新商品の開発はできない、社員の給料も増やせない、税金も払えないし配当も払えない。
成果を出すためのイニシアチブを一つずつやっているだけ。成果につながらないことは何もやらない。ダイバーシティもその一つだ。
まつもと・あきら◎1970年京都大学農学部卒業、72年同大学院修士課程修了後、伊藤忠商事入社。93年ジョンソン・エンド・ジョンソンメディカル入社、99年ジョンソン・エンド・ジョンソン社長に就任。2009年6月より現職。
カルビー◎2016年4〜6月期の連結決算は純利益が前年同期比10%増の38億円で過去最高。売上高は617億円(3%増)、営業利益は71億円(17%増)。09年に就任した松本晃会長の強いリーダーシップの下、女性執行役員数も26.7%と、ダイバーシティ先進企業のトップをひた走る。
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