米国市場ではFintechが今や一般化し、社会制度の一部となりつつある。
それを象徴する動きが、この5月9日にあった。P2Pレンディングの象徴的人物である、米レンディング・クラブ社のルノー・ラプランシュCEOの辞任である。レンディング・クラブは2兆円を超える貸し出し実績を有し、世界的にFintech 企業の代表格とも言われてきたプレーヤーである。報道によれば、辞任に至った理由としては同社が機関投資家に販売したローン債権にコンプライアンス上の問題があったことや、ラプランシュが利益相反の恐れのあるファンド投資を行っていたことなどが取り沙汰されている。
P2Pレンディングは、08 年のリーマン・ショック以降、銀行が貸し渋る中小企業や個人に向けて、代替的な融資手段を提供してサービスを拡大し、近年では貸し手は個人に限らず、ヘッジファンドなどの機関投資家も加わるようになってきた。
P2Pレンディングが主たる金融チャネルの一つへと成長する中で、規制上の懸念がなかったわけではない。P2Pレンダーがローンの借り手と貸し手を仲介するだけであれば、ローンの審査が疎かになるのではないかという懸念である。また、新たなFintechプレーヤーが売却するローンについては、銀行と比べて情報の整理が行われていないため、結果として市場が不透明になってしまうことも懸念されてきた。それだけに、ラプランシュの問題は市場から失望をもって受け止められただけでなく、Fintech 全体への規制強化に向けた論陣を張るメディアも出てくることとなった。ラプランシュの辞任の翌日の5月10日には、米国財務省が「マーケットプレースレンディングの機会と課題について」というタイトルのリポートを公表している。
ただ、この流れはFintechの拡大を阻害しようとするものではない。むしろ、金融システムという社会の重要なインフラの一部にFintechが定着したことで、従来であれば例外的に捉えられてきたプレーヤーを制度の一部として位置づけ、より社会の役に立つ金融システムを構築しようとする試みといえる。米国のような本格普及に至るにはまだいくつかの制度的な障害が存在している日本でも、米国で行われているような議論が、そう遠くない将来、展開されることを期待したい。
瀧俊雄◎マネーフォワード取締役兼Fintech研究所長。共著書に『FinTech入門』がある。