テクノロジー

2016.06.29 09:00

シリコンバレー「スタートアップの姉」、アイデンティティという武器で国境も常識も超えて行け

シリコンバレーで女性起業家のためのアクセラレーター“Women’sStartupLab”を運営する堀江愛利 (写真=東海林美紀)


堀江のプログラムは、リーダー個人の育成に重きを置く。現地の多くのアクセラレータープログラムがスタートアップ企業やプロダクト、サービスに重点を置くのに比べ、特徴的だ。
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参加者のレベルに合わせて2週間のプログラムが構成されるが、はじめに1人ひとりの起業家に対してアセスメント(評価、査定)を行う。投資家や先輩起業家ら複数のアドバイザーが付き、2週間のうち100時間以上リーダーシップの取り方やイメージトレーニングなど、起業家の個性を伸ばすプログラムが行われる。言葉、パーソナリティ、色、容姿や立ち居振る舞いなど、自身をどこまでアイコン化するかにまで話は及ぶ。

「もちろん、スタートアップの知識や、企業としてしっかり成立しているかという点は重要です。しかし、ビジネスは市場に左右されやすい。いいアイデアもダメになってしまうことが当たり前です。そんな時最も信頼できるのが、ファウンダー自身の強い心であり、周囲を引きつける力なのです」

プログラムの20時間以上を、ピッチ内容の構想の時間に費やす。「自分のビジョンを、ストーリー性と共に伝えるのは、想像以上に大変です。皆、8割の時間は悩み抜き、最後の2割で一気に仕上げていきます」。個人の人格、情熱、ビジネスが1つに並んだ時に、メッセージは強く伝わり成長が加速するのだと、堀江は話す。
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プログラムには日本企業の女性も受け入れている。今回、現地で取材したパナソニック現地法人のシリコンバレー拠点でトレーニーとして新規事業開発に携わる片山朋子は「日本企業ではファクトや数字をもとにプレゼンするのが通例ですが、どれだけストーリー性を持って、自らのビジョンを伝えることが重要か、身をもって知りました」と語ってくれた。

ベンチャーキャピタリストから投資を受ける女性起業家は、シリコンバレーでもわずか5~6%といわれる。テック系の男性が多いこの地では、まだまだマイノリティだ。堀江のWSLを卒業した女性起業家たちは、どのような問題に直面し、克服しているのだろうか。

10年コロラド州で、ゴルフGPSアプリ「SwingbySwing」を開発、創業したモニーク・ジギーは事業拡大のために、13年シリコンバレーに移り住んだ。「シリコンバレーにはスタートアップのための強力なエコシステムがあります。しかし、女性のためのものは他にありませんでした」(ジギー)

14年にM&Aの話があった。しかし、ジギーには経験がなく、1年ほど交渉を長引かせていた。そこにもう一つの買収話が来る。堀江は、M&Aの経験のあるアドバイザーをジギーに紹介。すぐにその人物がCOOになり、2社を競わせ短期間で売却を成功させた。

ジャクリン・バウムガーテンは、アメリカ西・東海岸で、完全保険付き、希望者にはドライバー付きの画期的なボートシェアサービス「Cruzin」を創業。WSLに参加した13年、彼女はフロリダで「Cruzin」の試験的運用を行っていたが、当時挑んでいた、資金調達への道のりは容易なものではなかった。

「疲れ果てているジャクリンを何度も見ました。ラボの中にナップルーム(昼寝部屋)を作った程です」と堀江はいう。

「何百時間という時間を、投資金を募るために投資家たちと費やしました。誰もが、アイデアを面白いと言ってくれましたが、今回が私にとって初めてのスタートアップだったからか、女性だからかはわかりませんが、目標をさらに先に設定され『達成したらまた来て。その時投資するから』と言われました。ショックだったのは、Cruzinより協力者(ボートオーナー)の数が少ない競合社が、私たちの資本の4倍もの資金を調達したときです。Cruzinは4分の1の資金で彼らよりも実績を上げているのにもかかわらず、です」(バウムガーテン)

こんな数字がある。女性が率いるIT企業500社を調査したところ、男性が率いる企業よりも8分の1の初期投資額で起業。役員に女性が1人でもいる企業は、47%も自己資本利益率が高い。

「女性が男性より優れていると言いたいわけではありません。しかし、イノベーションとは、技術だけではなく『常識に縛られず、社会のニーズを敏感に読み取り、いかに考え方をシフトするか』です。カーシェアリングサービス“Zipcar”を生みだしたロビン・チェイスのように。新しいオポチュニティ、市場を生み、ビジネスをブレイクスルーし、力強く前に進めるためには、女性の力を借り、女性にチャンスを与えてみることが近道かもしれない、と思うのです」(堀江)
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文=岩坪文子

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