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2016.06.13

USJも蘇らせたゴールドマン・サックスの投資の全貌

ゴールドマン・サックス企業投資部門アジア・パシフィック共同統括責任者のアンクル・サフ / 写真=平岩亨


ADSL回線の契約を一括で提供するホールセール(卸売り)を行う企業として設立されたイー・アクセスとゴールドマン・サックスとの歴史も長い。創業期の成長資金を投資してからソフトバンクとの統合までの13年間にわたり、約700億円を投資。特に05年には、携帯電話事業に新規参入したいという当時の経営陣を全面的にバックアップし、同事業に660億円を投資、イー・モバイルという国内第4位の通信事業会社を誕生させた。

「政府から電波免許の交付を受けるためには資金の裏付けが必要であった。我々が、経営陣の強力なリーダーシップを信じて資金をコミットしたからこそ新電波の本免許を取得できた。経営陣単独では実現できない規模の事業拡大を助け、多額の投資を迅速に決断できるのも我々の強み。ファイナンスの組成や事業面でのサポートなど、投資期間中はゴールドマン・サックス全体を巻き込んで支援してきた」

さらに、もうひとつの試みは、これから大きく成長すると見られている産業分野に、自分たちでニュービジネスを立ち上げるというものだ。これは現在も投資が継続中の案件で、長期投資を視野に入れているという。投資先は、ジャパン・リニューアブル・エナジー(JRE)という、再生可能エネルギーによる発電事業を行っている企業だ。これを国内最大級の再生可能エネルギー発電事業会社にするのが目下、ゴールドマン・サックスが描いているシナリオである。

JREは、東日本大震災と福島原発事故の後、日本のエネルギー政策が再生可能エネルギー重視に転じて、FIT(フィード・イン・タリフ:固定価格買取制度)を導入したことから、今後のビジネスチャンスが広がると考え、ゴールドマン・サックスが12年に立ち上げた。すでに160億円以上の資金を投じ、現時点で22ヵ所に125MW以上の発電所を新設し操業中、20年には建設中の発電所を含め1,000MWに拡大することを目指している。

創業期には大手ゼネコン、総合商社、大手メーカー等から第一線級のプロフェッショナルを経営陣に招き、大手の競合他社に負けない陣容でビジネスをスタート。創業3年目にしてEBITDA(償却前の営業利益)ベースで黒字を達成した。

同業には多くの新規参入者がいる中、そのほとんどは開発期間が短く事業リスクの低い太陽光発電事業に特化する中、JREは太陽光のみならず、陸上風力・洋上風力・バイオマス等、再生可能エネルギー全般を視野に入れている。
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文=鈴木雅光

この記事は 「Forbes JAPAN No.23 2016年6月号(2016/04/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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