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2016.06.13

USJも蘇らせたゴールドマン・サックスの投資の全貌

ゴールドマン・サックス企業投資部門アジア・パシフィック共同統括責任者のアンクル・サフ / 写真=平岩亨


そして今、優れたビジネスモデルと優秀な経営陣を持つ会社を創業期から支援し、投資者であるゴールドマン・サックスと経営陣が共に事業育成に取り組む「ビルドアップ投資」というユニークな投資戦略に取り組んでいる。

「ビルドアップ投資とは、圧倒的な実績を持つスタートアップ企業に投資し、経営陣のビジネスパートナーとして、事業育成を支援すること。まず優秀な人材を招聘し、プロフェッショナルな組織をつくること。次にゴールドマン・サックスのグローバルな知見と経験をもとに経営戦略・資本政策の策定を支援すること。そして最後にベストプラクティスに基づいてその戦略の実行をサポートすることだ。一つひとつの投資先に真剣に取り組んでいるので、必然的に我々の投資は長期投資になる」

未公開企業への資金提供については、一般的に、銀行融資に加え、プライベート・エクイティ・ファンドやベンチャーキャピタルという選択肢もあるが、ゴールドマン・サックスを選択するメリットは、よりハイリスクの事業ステージに、より纏まった資金を、より長い期間にわたって受けられる点にある。

銀行は創業時の事業リスクを取ることが難しく、多額の資金の貸し付けにはなかなか応じることができない。また、ベンチャーキャピタルやプライベート・エクイティ・ファンドは、できるだけ早期の投資回収を目指す傾向にある。

これに対して、ゴールドマン・サックス企業投資部門は、事業育成を最大のミッションとして、経営陣が目指す事業成長を理解し、経営陣との信頼関係を構築することに最も時間を費やす。事業が軌道に乗るまで長期的にサポートする覚悟で投資に臨んでいる。

「事業価値を高めていくビルドアップを成功させるためには、資金のほかに、広範なネットワークも必要だ。会社を大きく育てていくためには優秀な人材を探し、我々と共に経営してもらわなければいけない。スタートアップ企業の経営を引き受けてくれる優秀な人材を招聘できるのも、我々の過去の投資実績があるからだ」

ゴールドマン・サックスという、金融界最高峰のブランドに対する絶対的な信頼感がうかがえる話だ。ゴールドマン・サックスのビルドアップ投資は日本国内に限らない。中間消費者層の台頭が顕著なインドでは、高品質の日用消費財の需要が著しく高まっている。13年12月には、三井物産グループと共同で5,000万ドルの資金をコミットし、グローバル・コンシューマー・プロダクツを設立。同国の消費財市場において数多くの実績を有するA・マヘンドラン氏をCEOに迎えた。複雑といわれるインドの流通市場への進出を目論む日本のメーカーのために、現地とのパートナーシップの構築を支援していく。

伝統的な産業だけでなく、最新のテクノロジー企業にも投資している。昨年1月に出資したインドのAntuit社は、ビッグデータ分析サービス会社だ。世界的に高まる高度なビッグデータ解析のニーズを見越し、資金面はもちろん人材面や顧客獲得などに関しても、日本、北米、アジアにおいて首尾一貫した支援を提供。特に日本を戦略上の重要な市場だと位置付けており、今般日本法人を設立した。

「優れた人材とファイナンスのノウハウ、幅広いネットワークこそが、ゴールドマン・サックスの企業投資部門の最大の武器。次世代のリーディング・カンパニーとなりうる企業を探して、経営陣と一緒に成長への夢を実現させたい」

アンクル・サフ◎ゴールドマン・サックス企業投資部門アジア・パシフィック共同統括責任者、マネージング・ディレクター。1998年、ゴールドマン・サックスに入社。2004年東京オフィスに移り、10年より共同責任者として企業投資部門アジア・パシフィックを統括する。

文=鈴木雅光

この記事は 「Forbes JAPAN No.23 2016年6月号(2016/04/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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