1975年41歳で起業したアルマーニは、それまで甲冑のような構造をしていたスーツを解体し、柔らかく、そして艶やかに変化させた。それまでのスーツを形づくる上で絶対に必要な要素と思われていた芯地やパッドを省いたジャケットは、アンコンストラクティッド・ジャケットと呼ばれ、現在では「アンコンジャケット」の名で親しまれている。
スーツというアイテムが世に出てから、「初めて」といっていいこの劇的な変化は、またたく間に世の男たちの「個性」を演出し始めた。「生地と身体の間の空気をもデザインした」と称されるジャケットは、世の男たちを「紳士のルール」という呪縛から解き放つとともに、セクシーと呼ばれる要素が加えることになる。艶やかな素材から生まれる独特のドレープ感は、80年代という時代のムードにも合致し、またたく間に世界中に伝播していった。
それ以上に、アルマーニが独創的だったのは、このスーツに威厳や特別な価値観を植え付けていったことだ。それはビジネスの側面から鑑みることで証明できる。
「ファッションデザイナーになっていなかったら、映画監督になりたかった」というアルマーニは、映画『アメリカン・ジゴロ』(80年公開)や『アンタッチャブル』(87年公開)に衣装を提供した。この手法は、現代ではスタンダードなパブリシティの手段となっているが、それを先駆けたのがほかならぬアルマーニというわけだ。その効果は絶大で、それまで無名だった役者だけでなく、映画を観た観客らに「ジョルジオ アルマーニ」というブランドに特別な価値観を抱かせる要因となった。
またスポーツシーンでの功績も見逃せない。サッカーのイングランド代表チームのユニフォームや、クラブチームの名門「チェルシー」のスーツも手がけたアルマーニは、世界的に有名な一流のスポーツ選手などのセレブリティが自分の服を着ることで生まれる、宣伝効果の価値をわかっていたのだ。
現在、ジョルジオ アルマーニ社は、アパレルだけで「ジョルジオ アルマーニ」「ジョルジオ アルマーニ プリヴェ」など10近くのラインを揃える。それだけでなく、コスメティクス、インテリア、レストラン、ホテル、ライフスタイルすべての分野をカバーしているトータル・ライフスタイル・ブランドに成長した。
ひとつの服で、時代のムードをも変えてしまった「ジョルジオアルマーニ」は、20世紀の金字塔となった。この偉大な功績を残したアルマーニは、現在でも「帝王」の名を冠しモードの先頭を走っている。